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「蔵……」
「っぁ……なまえっ……、ん……」


いつになく柔らかな声と顔でなまえが俺に触れてくる。
今までの荒みが嘘のよう。
にっこりと笑ったなまえは歳相応か少し幼く見えて、甘やかしたくなる。
ゆっくりと俺の髪を梳きながら首元に顔を寄せてくるなまえ。

若干固めの髪が不規則に当たって擽ったい。
でもそれも時折舐めるといった動作によりなまえに開発された俺の身体は快感に直ぐ様変換されてしまう。

鼻にかかった高く媚びる声。
女子なら全く違和感のない声なのだろうがいかんせん俺は男。
いつ捨てられるか。
不安が否めない。


「っ、ぅあ……ふ、……ぁ」
「……蔵、かわええ」
「! ひぁ、そ……こで喋らんッ……とって、んぁ、!」


ホンマに今日は機嫌がええ。
どうしたんやろ、裏読みをするよりも早く嬉しさが全身に回って思うように考えが纏まらない。
これが嘘偽りでも裏の意図があったとしても嬉しいのに変わりはなくて。
全身が熱で浮かされ始める。


「は、ぁ……ッん……! っあ、」
「……」
「……? ……ぁ……」


いつの間にか剥ぎ取られていた衣服から覗くのは当然ながら俺の肌。
痣と傷痕に塗れた汚い身体。
身体をやらしく這っていたなまえの指がそろそろ瘡蓋になりかけ始めている箇所を緩やかになぞった。


「っふ……ぅぁ、……」


瘡蓋をなぞる。
たったそれだけの行為にぶるりと身体を震わせて、ホンマしょうもないわ。
俺を押し倒しているなまえは悩まし気に眉を曇らせその箇所にそっと顔を寄せた。


「……なまえ? 、ッ……!」


ビリッと走った痛みと快楽の狭間にあたる不思議な刺激。
瘡蓋を吸われたと気付いたのは一拍遅れてから。
顔を上げたなまえは弱々しく俺に微笑みかけて「堪忍……」と言葉を発した。

暗がりに慣れた目でじっと見つめて、なまえの瞳は哀感に揺れている。
やっぱ俺はなまえから離れたらあかんねんな。俺は。


「謝らんでええよ……俺は、大丈夫や、」
「く、ら……」
「こんなん、なんともあらへん」
「……おおきに……っ」
「なまえ……」


強く強く抱き合う事で素肌と素肌を重ね合わせて。確実に感じる体温。
まだお互いが生きている、血が通っているという証拠。


「……続けてや、?」
「……おん」
「ッ……ぁあ……っは、……ン」


俺はなまえの最後の砦。
まだその立ち位置に在るみたいだから。
確りと奥まで感じる心地良い熱に高揚する身体。


「ふぁ、ぁ、あ……ぅ、ん、」
「ん、……動くで」
「好きに、し、や……っあ、ぁあ……!」


どんなに酷くされたって痛くされたって傷付いたって、あないな態度をとるんは俺にだけやし。
こうやって優しく甘えてくれるから。

これがなまえの本来の姿なんやってアホみたいに信じてきた。
そのたびに裏切られるけど、そのたびにまた信じる。
その繰り返し。どちらが始まりだったかなんてあやふや。
どこが終わりかも分からない。


それに、なまえが俺なんか見てないのは十も百も承知だ。
でも、いつか……いつかは見てくれる。
そう願って、俺はみっともなくも必死になまえに何度も縋り付いた。




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