先日俺みょうじなまえは一大決心をいたしました。
財前の様子に違和感を持ってから数週間が経ち、一向にその違和感を拭い去ることが出来なかった(寧ろ悪化してるような……)ため強硬手段を取ることにしたのです。
謙也からパクったままだったビデオカメラを居間に設置し、事実を確認するという荒療治。
いくら自宅とはいえ財前には内緒だから隠し撮りと大差はない。
そして今日!
財前がフルコマ(珍しい)で俺が休み(これまた珍しい)という確認にはもってこいの日取り。
「いざ、出陣!」
と意気込んだ、までは良かったのだ。
再生された録画内容に俺はぴしりと石の如く固まってしまう。
そこには目も当てられない様な泥酔状態の俺が財前に絡んでるところが克明に映っていて。
想像以上にひどい醜態。
やべえ……今なら羞恥で死ねる。
これはそこらのリーマンの絡みより質が悪いで、とか盛大な一人言を繰り広げているとテレビの中ではどんどん行動がエスカレートしてく。
そして遂に俺は赤面を通り越して青くなった。
『ゃ、ぁ……あ、かん、て……あ、っは』
『かぁだはあかんくないゆぅとんでえーかんねんしぃやあ』
『ひぃ、ぅッ……ゃ、……あ、ふ、ッん』
なんやのこのただのエロ親父な発言は。
されるがままの財前がホンマ不憫で、申し訳なくて。
しかも酩酊している俺の台詞をよくよく聞いていると既に何回か事に及んでいるようだった。
「……俺マジさいってー」
『も、あか……なまえさッ、ン』
『かわえ……イきそ?』
『っは、ぃ……ッぁ、手……ッ離し、んぁあ! ぁ……ぁ、』
『ん、ぎょおさんでたなあ』
ちょっちょ、おま! いらんこと言うなや。
ふるふる震える財前は未だ達した余韻が抜けないのか、目は潤み頬は紅潮している。
俺のものが卑猥な音を上げて中に収まっていく光景に情けなくも泣きそうだ。
『ひかぁ、だあじょぶ?』
『あ、ぁぅ……なまえさ、「……なまえさん、?」
「ッうお?! ざ、財前…」
「? 何見て『や、なまえさんッ……おっき、ひ、ぁあ!』
「!」
少し早い財前の帰宅、その何とタイミングの悪かったことか。
部屋に響いた喘ぎ声に財前は眼を見開いて、脱兎よろしく部屋から飛び出した。
つか俺ん家から出てった。
はい、俺終了のお知らせー……。
痛む頭を押さえながら俺も財前を追うべく駆け出した。
君に触れる度に僕の何かが崩れていく
ありえへん、ありえへん、ありえへんっ!
思考が纏まらないぐちゃぐちゃな脳ミソが弾き出したのは"逃げる"という選択肢のみ。
無我夢中で脚を前に踏み出して後を蹴り出すを繰り返す。
この歳になってから全力疾走するはめになるとは微塵も思わなかった、なんてどうでも良い事は浮かぶのに。
一番重要な事には全く頭が回らなくて、走りながら目玉の奥が熱くなって苦しい。
「……ッはぁ、はあ……ッ、は」
流れる景色が見慣れないものに変わったところで漸く動いていた脚を止めた。
どくどくと色んな意味で早鐘を打つ胸を掴んでその場にしゃがみこむ。
形振り構わず走った所為か自身の喘鳴が酷く邪魔で、無意識に漏らした舌打ち。
バレて、しもた。
いつまでも続くなんてそんなアホな事は思っとらんかったけど、まさかこんな形で終わるとは。
「は、はは……アホ過ぎて、逆に笑えんわ……」
なまえさんはいつまでもなまえさんのまま変わりなく俺の気持ちには気付かんで、俺が耐えれんくなった頃に全てが終わるんやって。
そう思っとっただけに、こんな展開予想だにしてなかった。
まだ、諦めなんか全然付いとらんのに。
この気持ちもなまえさんも、まだ、何もかも。
「……普通、自宅にカメラ、置くかっちゅーねん……!」
「ッ、しゃーないやろ! こうでもせんと、……はぁッ、ろくに何も、覚えとらんのやから!!」
「っ!? 、ぁ……」
ぼそりと言った苛立ちに自棄糞な返事が息切れ混じりに返ってきて咄嗟に振り向いた。
そして直ぐ全身に襲ってきた後悔の嵐。
聡いなまえさんのことやからあれだけの情報で今まで何があったかは理解してしまったはず。
だとしたら、俺に向けられる感情といえば……一番残酷な。
「……堪忍な」
「な、にが……っすか」
「俺……酔っ払って財前にあんな最低な事……」
「……」
ちゃう。ちゃうよなまえさん。
俺にとっては。
「ホンマにす「、聞きたない!」
「ッ財前?! ちょ、待ちぃや!!」
謝罪も拒絶も聞きたくなくてもっかい逃げようとして見事に失敗した。
ぐいっと手首を捕まれ半ば強制的に目線を合わさせられる。
嫌や。見んといて。触らんといて。
折角抑え込んできたのに……っ。
ひどくすまなさそうに顔を歪めるなまえさんにプツンと頭の中の何かが切れた。
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