扉越しに会話が聞こえた。
「――…で、噂はマジなん?」
「……俺は大丈夫やから心配すんなや」
「そげんこつ言われても、心配やけん」
部室には部長と謙也さんが着替えた状態で千歳先輩が制服姿で既に居った。
無事あいつらはやってくれたようやな。
部長の首に巻かれた包帯。
先日まではなかったそれに俺は内心ほくそ笑むも何事もないかのように挨拶を済ます。
部長は普段通りなのに謙也さんはどこかぎこちない。
千歳先輩の挨拶なんて余程部長が心配なんか心ここに在らずといった曖昧なもの。
どれも今に始まった事じゃないか、と込み上げる笑いを堪えて着替えに取り掛かる。
「部長、首の包帯……どうしたんっすか」
「ん、ちょお変な痕が残ってしもてん。恥ずかしいから隠しとるんや」
「白石、」
「何やねん謙也も千歳も。そないに怖い顔しおって」
部長が二人を不審そうに交互に見やり口を開きかけた時、丁度良く部長の携帯が鳴った。
あの着メロはなまえ先輩専用。
ピタ、俺の手が止まる。
「……なまえどした、え? いや、でも……おん……ん、おおきに。……おん、待っとって」
段々と部長の表情は晴れやかで嬉しそうなものに変わっていき、反対に俺の表情は曇ってきた気がする。
「……何でやねん。何で、」
「財前……?」
「千歳先輩、早よ部長なんとかして下さいよ。……あの人ホンマ邪魔や」
本当苛々する。
苛立ち紛れに吐き出せば驚愕に満ちた風に瞠目した千歳先輩。
……ああ、この人には何も言うてなかったんやっけ。
ま、どうでもええけど。
「財前も、みょうじの味方やったと……?」
「別に……敵とか味方とかどうでもええねん。ただ俺はなまえ先輩が欲しいんっすわ」
「……は?」
「折角けしかけてんに……なまえ先輩も部長も別れ「ざ、い前ッ!」
千歳先輩の手によって俺は鈍い音を立ててロッカーに叩き付けられた。
あんたに暴力受けたってただ痛いだけやねん。
「痛、った……なまえ先輩には手を上げんと俺には上げるんすか」
「昨日のこつは財前が差し向けたと?」
「……そうだ、と言うたら? 、ッ!!」
思いっきり横ッ面を殴られ口ん中が切れた感じがする。やっぱ理不尽や。
千歳先輩の後ろで二人が驚きのあまり固まってて、目前の巨体は怒りに震えていた。
「ッ見損なったばい!」
「……見損なうも何も、先輩は俺の事何も知らんやろ。それに、あんたが中々行動せんのがあかんねん」
「っ……!?」
「そないに欲しいんなら無理矢理にでも奪ったらどや」
そんで首に縄でも付けとけばええやん。
下からギロリと見上げてなまえ先輩を真似て鼻で笑ってみる。
困惑したような部長と謙也さんが間に割り込んで話は途切れた。
二人は説教染みた言葉を羅列して、あんたらが原因やっちゅーねん。
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