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「あ、やば……」


昼休み。
白石と昼食を取りながらスケジュールを確認して、今日バイトだった事を発見した。
確か財前は今日5限まであるって言うとったから、と携帯を取り出そうとポケットをまさぐってフリーズ。
しもた、携帯充電したまんまや。


「どしたん?」
「いや、今日バイトっちゅうのを財前に言い忘れてんけど携帯忘れた」
「アホやんな」
「喧しい! ちょ、財前んとこ行ってくるわ」


ちらりと近くの時計を確認したら今から行けば間に合いそうな頃位。
白石の返事も聞かずに俺は人混みの中に飛び込んだ。
だからこの後の白石の呟きは耳に入っていなかった。


「俺の携帯使えばええんに。やっぱアホや」






財前は確か英文科。
その所為か知らんが外人とよお擦れ違うしよお挨拶する。
日本語で、やけど。

財前が好みそうな教室とか多目的室とかを覗いて、見付からない。
この大学の広さ舐めとった。
つか、白石の携帯使えば良かったやん。
はああ、俺のアホ。

なんて自己嫌悪に陥りかけたその時、今朝見た服装と髪型を見付けた。
ラッキー! そう思って声をかけるべく近付こうとしたところで脚が竦む。


財前は複数の女子と話してて。
その真ん中に居る女子は少し照れた風に笑ってて。




「……」




なんやろ、これ。
今まで感じたことのないもやもやとした感覚に戸惑いを覚え俺はこの場から即刻踵を返す。
せや。財前ってぶっきらぼうで仏頂面やけど話してみたら意外にええ奴やし。
モテるよな。


「……白石に借りよ」


来た時同様足早に歩いて、頭ん中を占めるのは財前の事。
俺がどうこう言える立場じゃないのは分かってるけど、確かに誰かと話してる財前を見るのは嫌だった。
我儘やな、財前を独り占めしたい……なんて。

別に俺のもんなわけやないのに。



狂った行為でも愛があればそれでいい



めんどくさい。

それが俺の感想だった。
どこから嗅ぎ付けたんか俺になまえさんの事を聞いてくる女がかなり増えて、正直鬱陶しい。
こいつなんてもう何度目かも分からん。
あの人はホンマにどこまで人気なんやろか。
薬学科と英文科はめっちゃ離れとるし接点なんかないっちゅーねん。


「なぁ、財前くん。なまえさんと仲ええんやろ? 意地悪せんと教えてぇな」
「せやから、俺は知らん言うとるやろ。くどいで自分」
「うちの質問に答えてくれたら大人しく帰るわ」


めっちゃウザい。
大体俺がなまえさんの好みの女なんか知るわけないやろ……ま、知っとっても絶対教えたらんけど。

サークルの女達と比べたら幾分か抑え気味の化粧。
多分普通に可愛い系の部類に入るであろう容姿。
なまえさん、こういう奴が好みだったりするんやろか。


「……とにかくホンマに知らんねん。他当た「ざーい前!」ッなまえさん?」


中々引き下がらないこの女に八つ当たりしそうになるから早くこの場を済まそうと口を開いた矢先。
背中に感じた声と衝撃。

どうしてここに……?

疑問は直ぐになまえさん自身から解決されるわけなのだが。
するりと肩に回された両腕。
触れる部分が熱い。


「今晩飲み会やねん」
「……またっすか」
「おん! それで財前はどないする? 行く? 行くよな」
「俺に選択権あらへんやん」


笑いを含んだ吐息が耳元、首筋を掠めて思わず腰が疼く。
なまえさんは背後に居るため表情は全く分からない。
ただ目の前の女が茹で蛸並に真っ赤になってるから、きっと見惚れる程カッコええんやろな。


「それに今日謙也が新譜持って来るんやって。やから早よ行かへん?」
「行きます。……ま、そゆ事やから」


なまえさんの腕を取って、得意気に俺は歩き出す。
出来る限りの牽制を周りに振り撒いて、なまえさんは絶対渡したりしたらん。
やり過ぎかとも思たけどこうでもせんと男である俺には…。

と、数分歩き続けたところでふと違和感を覚えた。
いつもは五月蝿いくらい(謙也さん程じやないが)話しかけてくるんに今日に限って沈黙。


「……なまえさん?」
「……なあ、財前」
「なんすか」
「前にもあの子と話しとったよな?」


あの子……さっきの名前も知らない女のことやろか。
もしかして、なまえさん好みやったんか……ん? 前にも?


「前っていつやねん」
「あ、っと……俺が携帯忘れて白石の携帯からメールした日」
「……ああ」


その日も結局今日と同じ様な中身やったけど、ってなんで知ってんねん。
率直な疑問をなまえさんにぶつければ一瞬言葉を詰まらせて「い、や……何でもない。さ、さっさと行こうや!」と取り繕う。
何だか腑に落ちない。
が、少々焦ってるなまえさんが可愛かったから気にしない事にした。




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