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左から右に流れてく今流行のJポップ。
そういえばこれ財前がええな言うてたやつやん。
……今度ちゃんと聞いてみようかな。実を言うとサビの部分しか聞いた事ないねん。
とか、頭ん中では別の事を考えて手は事務作業を黙々とこなしている。


「ありがとうございましたー」


作った声に作った笑顔。
そう俺は今絶賛アルバイト中です、はい。

作りものなんて俺から言わせるとキモい以外の何物でもないんやけど。
今しがた買い物を済ませた女子高生はきゃいきゃいと騒いでいた。
嫌味かもしれんけどそういう視線は日常茶飯事やから、こういうんは無視するに限る。
さ、仕事仕事。


「みょうじセンパーイ」
「何すか、鳴海さん」


ある程度客を捌き終わったところで後輩(と言っても5つも歳上なのだが)ににじり寄られた。
この人が話しかけてくる内容と言えば容易に想像がつく。


「今日飲みn「行きません」
「ちぇ」


鳴海さんの言葉を全て言い切る前に拒絶の意を示す。
そうでもしないと俺の事だから多少強引なこの人に流されて連れて行かれるに決まっている。
こう何回も醜態晒してたまるかっちゅうねん! ……今更遅い気もするけど。
それに大人しく引き下がった所を見ると絶対行きたいとかではないようだ。


「最近つれないでー」
「酒控えてるんですわ」
「彼女でも出来たんー?」


この人の爆弾発言に商品棚の整理をすべく手に取った商品が足元に落下。やば。
てか、なんで今”彼女”の言葉で財前の顔が浮かんできたんやろ。
慌てて商品を拾い上げると鳴海さんは畳みかける様に言葉を繋ぐ。


「やっぱそうなんか」
「ち、ちゃいます! 彼女なんか、居てません!」
「じゃあ、ええやろ。付き合うてや」


……やられた。
恨みがましく鳴海さんを見上げれば悪戯が成功した子供のように意地悪く笑っている。
結局バイト終了時刻19時半から居酒屋に連れて行かれ、解放されたのは23時を回った頃。
せめてもの悪足掻きとして学校を盾に酒だけは断固拒否してきた。

しかしこの時俺は大事なことを忘れていたのだ。
そう。重大な事を。



捨ててくれればいいのに



寒い。
現在時刻23時10分。
今日なまえさんがバイトなのは事前にちゃんと報告を受けていたから、サークルが終わった後抜かりなく寄り道をしてきた。
あの人の話を信じるとすれば帰宅時間は20時前だった筈。

既に3時間は待ち惚けを食らっている。
未だなまえさんが現れる雰囲気は、ない。
カレンダー的にはそろそろ初秋が終わる頃。
この時期の快晴深夜の気温を侮るなかれ、元々低体温気味のこの身体は冷え切っている。


「(てか、帰ればええんやろうけど……)、はあ」


自身の身体を温めようと買ったココアも既に飲みきり外面も触れるのが臆する程に冷たい。
ええ加減立ってるのも厳しくなってきてずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
低くなった目線に伴って変化した景色。
それに一瞥くれて、吹き抜けた風から身を守る様に自身を抱き締める。


「、なまえさん……」


そして思い出したのは初めてなまえさん家に泊まった日の事。
酔い潰れていたが故の火照った身体。
酒の臭いが気にならないぐらい心臓が五月蝿かった。

次いで脳内に出てきたのはつい先日の出来事。
まさかホンマに抱かれるとか。いや、前弄られただけやけど……。
あの次の日の態度、あからさま過ぎたやろか。


「! ッ財前!?」
「! 、ぁ……」


耳に心地よいその声は焦りを孕んでいて、顔を上げると表情も焦っていた。
寒さのためか鼻の天辺が赤かったけど酒の色は見受けられない。
珍しい。
こんな時間までほっつき歩いとって飲んどらんとか。

ほんの数秒前までやらしい事を考えてた所為か、漏れた声がなんだか恥ずかしい。
なまえさんは全然気にしとらんようやけど。


「ずっとここに居ったんか!?」
「……ええ、まあ」
「こんなに冷えてもて、……堪忍な」


本当にすまなそうに目の前にしゃがみこんだなまえさん。
大きくて温かいなまえさんの手の平がかじかんだ俺の両手を包み込む。
きっとこの人の行動は何の考えもなしにただ温めたい一心だったのだろう。
だけれど。


その気がないなら優しくしないで。
何があったか確認もしないで家に上げないで。
勘違いしてまう。




それでも。
寒空の下で待ってた甲斐はあったかも。
だって熱くなった頬が寒さ由来の赤みに隠れるから。

まだ、大丈夫。
まだ、普段通り振る舞える。
大丈夫。




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