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結局事実確認も出来ないまま数日が経ってしまった。
財前も全く自身の家に帰る素振りなどなく、俺の家に居座り続けている。
財前の文句を言わせない空気に流され図らずも同居の形をとり、今日もまた大学への道のりを共に通う。

ちなみに朝の通学中に会話はありません。(今昼やけど!)
朝が弱い財前には話しかけてもほぼ上の空ってことが多い。


「なまえー! はよーさん!」
「お、おお……はよ」
「ん? お、財前もおはよさん!」
「謙也さん……今、昼っすけど」


固いこと言うなや、と朗らかに笑い飛ばす謙也に心が少し軽くなる。
財前とが居辛いわけではないがどうもコイツと居ると変な事を考えてまう。…気がする。


「そういや、最近お前ら仲ええな」
「え、そ、そか?」
「何どもってんねん」


明らかに挙動不審な俺の背中を面白そうに笑いながらバシバシと強く叩く。痛い痛い!
ドラムやっとる自分の腕の強さを全ッ然理解してへんな、コイツ。
大袈裟に咳き込んだところでやっと気付いたのか力加減を抜いた。
遅いっちゅーねん。


「この前の飲み会ん時からやんなー……もしかして、何かあったん?」
「ッげっほ、ゴホッ! うぇ」
「おま、噎せすぎやろ!? つかその反応、まさか……ざ、財前?」


噎せたのは不可抗力や。
にしてもこのタイミングで財前に振るとか……もしかしてチャンスやないか!?
さあ財前! いつもの毒舌で否定してくれ!
なんて願望(寧ろ切望?)を視線に込めて財前を見た。
のに。


「……まあ、想像にお任せしますわ」
「「財前んんんっ!?」」


うわ、思わず謙也とハモってしもた。
口をぱくぱくさせる謙也や顔が熱い俺とは対照的に飄々としている財前。
……あれ、もしかして今の俺の態度って色々墓穴掘ったんじゃね?


「ああせや、なまえさん。今日は5限まであるんで」
「へ、あ……ああ、分かった」


俺の適当で気の抜けた返事に嫌な顔一つせず財前は俺らとは別の校舎へと歩いていった。
微かに笑っとったのは俺の気のせいやろか。


「なん、一緒に帰るん?」
「え、ああ……せやな。おん……帰る、んやな」
「? なんやのそれ。可笑しなやっちゃなぁ」


ほな、これから実験やから! と返事を返す前に走り去った謙也。
相変わらず忙しない奴やんな。



猛毒を吐くピンクの唇



5限の講義終了を意味する時刻にようやっと時計の針が届く。
がムカつくことに講義は定時通りには終わらず、気持ちだけが逸った。
なまえさん待たせてんねん。


「ねぇー財前くん」


苛々と講義資料系統を鞄に詰め込んでいると鼻にかかった耳障りな猫なで声に呼び止められた。
俺の名前を知っている辺りから推測するに同じサークルの人だろう。
生憎俺はメンバー全員を覚えるなんてことはしない。


「……何ですか」
「自分最近なまえに近寄り過ぎやないー?」
「サークル中はともかくー行き帰りも一緒とかぁ」
「なまえも迷惑しとるんちゃう?」


ああ、なまえさんの取り巻きか。

全員が全員揃ってケバい程の厚化粧。
そしてその下に隠れた本性は醜悪。
一人でかかってこれんと複数人で一人を袋叩き。

つか香水付けすぎ、臭いだけねん。
それでなまえさんが振り向くと本気で思ってんねやろか。


「別に。なまえさんと俺の仲やし、ええですやろ」


アンタらに関係あらへんわ、厚化粧。
と鼻で笑ってやれば最初に話しかけてきた女が顔を真っ赤にして右手を振り上げた。
乾いた平手音が人の疎らな講義室に響き渡る。
これはきっと赤く腫れるな。


「気ぃは済みましたか? ほな、なまえさんが待ってるんで」


背後で喚き散らす女達の喧しい声は俺の脳髄には届かない。
届かない。
ええやないか。自分らは。
女ってだけでなまえさんに。


「お疲れさ……って、どしたん!?」
「……さあ? いきなり叩かれたんで」
「はあ? ……家に帰ったらちゃんと冷やそな」
「、っす」


なまえさんの大きい手が労るようにそっと触れるのは嬉しいのに、ピリッとした頬が不愉快で顔が歪む。
それを痛みによるものだと思ったのか心配そうに顔を覗き込んでくるなまえさん。
この行動にデジャヴを感じざるを得ない。
帰ろか、そう笑うなまえさんに倣い脚を前に出して帰路へ。






人通りが賑々しい通りに出れば最近流行りの音楽が忙しなくかかっていて鼓膜を震わす。
半歩前を歩くこの人の背中は手同様に大きい。


「……、好き」
「んー? 何か言うた?」
「いや、……この曲ええなって」
「……せやな! 俺も好きやわ」


その単語を望んでいるけれど、そんな返答は欲しくない。
ああでも、やっぱりその笑顔は大好き。
出来れば俺だけに向けて欲しい、……なんてな。




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