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ドアが壊れるんじゃないかという程乱暴にドアを開けて。
部室の床にへたり込んだ白石とその傍らに直立しているユウジ。
はらはらと瞳から温かい滴を溢す白石に不謹慎なのは重々承知の上で、綺麗だと思った。

そして、儚いとも。
ほんの一部でも触れてしまえば散ってしまいそう、だなんて。
自身の過大美化妄想に笑えてくる。


「、白石!」
「ち、とせ……? っ、ぅ……」


所詮は惚れた欲目。
分かりきった事に構ってなどいられない。
ほんの数秒前まで抱いていた苛高は白石の姿に跡形もなく消え、変わりに焦燥が姿を現す。
駆け寄って背を擦れば大粒の涙を湛えている瞳が俺を映して。

はらり。

また一粒、頬を伝った。


「……えらいタイミングええな」
「ユウジ……!」


訝しげな声音。
ユウジはこの異常な状況にもかかわらずいつもの表情を保っている。
不審がっているのは声だけ。
それが逆に奇妙で。



「なん? 言いたい事があるんやったら、はっきり言いや」



じとりとした視線を向けられて、不覚にも一瞬怯んだ。
だけれどもユウジは眉一つ動かさない。
渇いた喉に無理矢理唾液を送り込んで発声を促す。


「……なしてみょうじの味方すると?」
「そんなん決まっとるやろ」


こちらは発言にこんなにも苦労したというのに。
考える素振りもなくユウジは即答。


「俺と自分の中の優先順位がちゃうねん」
「……」
「それだけや」


優先順位。
そうはっきりと断言した。
つまり、それは(俺にとって)憎きみょうじの方がユウジの中では上位にあるという事。
みょうじを庇う余地が全く存在し得ない俺の頭では到底ユウジの思考回路を理解は出来ない。


「白石、泣くほど辛いんやったら諦め」
「! や、ゃ……っく、……ぃゃ、やッ」
「……ばってん、そげん無理ばしとっと身体壊すったい」


弱々しく頭を左右に振れば周囲に飛び散った透明な飛沫。

こんなにも白石は理不尽な扱いを受けているのに。
こんなにも白石は傷付いているというのに。
どうして。

みょうじの本性を知っているユウジが何故、みょうじに荷担するのか。
涙を止めようと頻りに白石は目元を拭うも一向に止まる気配はなく。
震える身体がいつもよりも小さく感じた。


「ッ! 、っ、う……だ、じょぶ……だいじょぶ、やから……ッ」


必死に笑顔を作ろうとして。
掠れた声は白石の努力を踏み潰す。
早速無理して……もっと自分自身を顧みて欲しい。
もう、ぼろぼろじゃないか。


「壊れるんはあいつ一人で十分やわ」


ぼそり、呟いたかと思ったらいつの間にかしゃがんでいたユウジは柔らかくハンカチで白石の涙を拭った。
ここで初めて見せた微かな表情変化。

ユウジは、苦しそうに目を伏せていた。




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