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部室のドアを無造作に開けて一番最初に目に入った。
日本人離れした長身に癖っ毛の髪。
俺を酷く毛嫌いしている同級生。

今だってほら。
敵意剥き出しで睨んでくる。


「最初っから居ったやろ」
「……」
「立ち聞きなんて、随分ええ趣味しとるやないか」


なあ千歳? とわざと神経を逆撫でする様な言い回しをする。
乗ってこようが乗ってこまいが俺にはどうでも良いことには違いないけれど。
数秒沈黙して大きく息を吐いた千歳は引き攣った笑みを浮かべた。


「今日はやけに機嫌が良かね」
「……そうか?」
「そげに偽物の彼女がお気に召したと?」


偽物。

随分な物言いだ。
そんな安い挑発に俺が乗ると本気で思っているのだろうか。
だったらお笑い種やな。


「せやな。偽物なりに頑張ってるんとちゃう?」
「、っみょうじ……! 白石に何の恨みがあっとッ」
「恨み? おもろい表現やな」


さっきの笑みはどこへやら。
眉間に深く刻まれた皺が千歳の不機嫌さを物語っている。
強く強く握りしめられた右手が今にも殴りかかってきそうだ。


「そんなもんあらへんわ」
「……なら何の理由があって、白石に辛く当たんね」
「蔵は、あれでもええねんて」


嫌なら辛いなら俺の下からさっさと逃げれば良い。
千歳みたいな奴に匿ってもらえば良い。


「ちゃうか?」
「そんこつみょうじは許さん」
「俺は来る者は拒まず去る者は追わず主義なんやけどなぁ」


アイツ以外、な。
言外に含めた俺の言葉に当然千歳が気付くことはなく。


「ッみょうじの言動一つ一つが、白石を縛り付けて離さんったい!」


誰やねん。
こいつを温厚で優しい奴や言うとったのは。
全然温厚のおの字もあらへんやん。
顔を真っ赤にさせて、目くじら立てて。


「せやったら、お前が助けてやればええやん」


出来ればの話やけど。

嘲笑を浮かべながらの呟き言は果たして怒りに震える奴に届いたのか。
まあ、俺にはやはり興味の湧かない事柄だ。
後ろのドアの向こう側では白石が泣いている。
隣に立ってるユウジはきっと優しいから慰めているだろう。

……ああでも優しい半面不器用で口下手やから、何もせずに傍観してるかもしれない。
どちらにせよ千歳にとっては好機には違いないやろ。


「早よ行って蔵を慰めたら? セイギのヒーローさん」
「……ッ、最低な男ばい……!」
「精々頑張りや」


悔しそうに唇を噛み締めて、荒々しく部室へと入って行った千歳。
あいつの所為で心地良かった気分が台無しになってしもた。




いつからだったか。
千歳からの視線に妬心に紛れて嫌悪が混ざってきたのは。
中学の頃はまだ互いに何も感じてなくて、ただ。


「過ぎた事やな」


ただ。
あの頃は平穏だった。




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