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四角く切り取られた窓枠の向こう側には延々と重厚な雲が広がっている。
薄暗い空模様は今にも泣き出しそうで、まるで白石のようやった。


「蓮華、」
「っ、」
「ちょ、なまえ……苦しいわ」


今日も俺となまえとの茶番劇が始まるわけだけれど、今日は少しいつもと事情が違った。
それは生身の身体が眼前にあるという事。
温かく温い体温は抱き締める人物が生きてるという証。
なまえが白石をきつく抱擁して俺はまた性別を越える。


「固いこと言うなや、今日はちょお寒かってん」
「まだ夏の終わりやで? アホな事言うんやないの」
「っはは、蓮華冷たいで」


ぷるぷると震える白石の目蓋が閉じられる。
こんな状況にもかかわらず白石は耐え続けるんか。
ホンマ健気なやっちゃな。
さっさと諦めて見切った方が断然楽になれるんに。

白石の首元に擦り寄るように額を寄せて、なまえも目を閉じる。


「っん、ほんまの事を言うただけやわ」
「……おん、せやな」
「……なまえ」


俺は二人の偽りの抱擁を真横から見る形で立ちなまえの言動から次の台詞を考えていた。
この状況下で失敗すれば、とばっちりを食らうのは白石なのだ。

なまえと白石と俺。
3人もこの場に居るのに、発言を許されているのは2人だけ。
なまえと小柳。
一氏ユウジも白石蔵ノ介も言葉を発してはならない。

頻りに”蓮華”と呟くなまえは何の前触れもなく予想外の行動に出た。


「っ、――! ……、」


鎖骨の気持ち少し上らへんに咲いた赤い花。
俺も白石もこの行為は想定外で、思わず声を上げそうになった白石の口を手で塞ぐ。
間一髪。
息を飲む音だけに留まった。


「っは、……いきなり何なん?」
「んー、印。蓮華は俺のもんちゅうな」
「……ほんま独占欲強いんやから」


つか、俺かてされてもいない行為に言葉なんて付けられへんわ。
相変わらず無理難題押し付けて来よってからに。こいつは。


「堪忍……せやけど、あかんねん。蓮華が居らんくなったら、俺、」
「……やっぱなまえアホやね。ウチが離れてくとほんまに思てるん?」
「思っとらん! けど、」

自分もか。何キスかましとんねん。
大方泣きそうななまえが放っておけんくなったんやろうけど。
気付いてんか、白石。
自分の方がめっちゃ泣きそうやで。


「、っそれ以上は言わんで。分かっとるから」
「っおん……」


漸く白石を解放したなまえはにっこりと満足そうに笑って白石の頭を撫でた。
もしかしたら、なまえは妄想の彼女を視とる。




「ユウジありがと」


心から嬉しそうに笑いかけるなまえに「別に」とだけ返し、なまえは部室から出て行った。
崩れ落ちる様にへたり込んだ白石は気丈にも俺に微笑む。


「声押さえてくれてありがとな」
「……別に、」


だけれどその微笑は微笑と呼ぶには歪過ぎた。




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