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制服のポケットに入れた携帯が着信を伝える。
授業中だってのに、眉を顰めつつ先生の目を盗んで新着画面を開いた。






「で、用て何? 俺暇やないねん」
「……なまえ先輩」
「ん?」


呼び掛けてきたっきり黙りこくった後輩の財前。
話す言葉が見つからないにしては困惑はみられず、無表情なのに俺を凝視する眼は熱い。
普段が生意気一辺倒だから少し違和感。


「何も言わんなら戻、ッ!?」


不意に伸びてきた両手が俺の頬を固定したかと思ったら、あっという間に口を塞がれた。


「、ん……ぅ」
「止め、財前ッ……離れろや!!」


数秒呆けている間に財前の舌が口腔内に滑り込まれて、柄にもなく声を荒げる。
次いで俺の右手が奴の首を押さえて背後の壁へと押し付けた。
後頭部を強か打ち付けた筈であるのに、財前は目を細めて破顔。




「先輩、いつ部長と別れるん?」




まさか財前の口からそんな言葉が出るとはこれっぽちも思っていなくて。
言葉が出てこない。


「何で部長と付き合うてるん? 何で謙也さんを抱くん?」


するり、白石よりも細くて白い両手が蛇のように俺の腕を這う。


「何で俺やないねん」


形の良い爪先がぐっと上肢の表皮に食い込んで、皮膚が切れたことを知らせるピリッとした痛み。


「俺ずっとずっとずーっと先輩のこと見てたんすわ」


財前の顔には変わらず笑顔が貼り付いたまま。
そこにいつもの後輩の姿は欠片も見出だせない。


「365日8760時間525600分31536000秒、片時も先輩のことを考えん時がないくらいに全部……見て、聴いてとりました」
「……きしょ」
「っン、! 先輩の声ッ……エロいっすわ」


テニス部とは到底思えない細っこい身体が大袈裟なまでに跳ねる。
先程のキスで濡れた唇から漏れたのは艶を孕んだ吐息。
おもむろに視線を下げて薄ら寒いもの感じた。


「うわ……勃っとるし、」
「はあっ、ぁ……先ぱ、……ン、俺も、抱いたって……!」


ありったけの侮蔑を視線に乗せて見下ろしたにもかかわらずこの反応。
首を圧迫しているなんて感じさせない嬌声。
めっちゃキモい、キモ過ぎてどん引きやマジで。

「……絶ッ対、お前だけは抱いたらん」
「! 何で……先輩のこと、めっちゃ……ん、好きやんにぃ!」


涙で潤んだ瞳で上目遣いすらも気味が悪い。
眉、瞳、唇、声どれを取ってもあいつより見劣りする。


「絶対部長や謙也さんより! なまえ先輩のことッ……知ってますっ、」
「っは、ストーカーとかマジ論外やし」
「、ふぁ……なまえ先ぱ、」
「それに……自分じゃ、あいつらの代わりには成り得へん」


恍惚一色だった瞳が僅かに歪む。
そこに生まれた感情なんて興味も湧かない。


「邪魔や。去ね」


手をどかすと同時にずるずる座り込んだ財前。
立ち去る寸前に視界に留めた光景に俺は更に悪心を覚えた。
財前は達していた。




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