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運良く校門のとこで謙也を捕まえることに成功した。
中学ん時は金パ(派手やんなぁ)だったらしい髪も今は暗めの茶髪。
どっちにしろ太陽に反射して眩しいんやけど。
挨拶もそこそこに俺は目的の内容を謙也に問いただす。


「昨日? なんややっぱ何も覚えとらんのか」
「……せやから、聞いとるんやないか」
「はいはい。昨日はー……まあ、いつもと変わらんなあ。へべれけやったで」
「…………さよか」


そして、その予想を裏切らない醜態に頭を抱えざるを得ない。
へべれけって何やねん。
今更やろー、と豪快に笑い飛ばした謙也は落ち込む俺に見向きもせず俺とは別の校舎へと消えた。
今更なんは今更やけど……今回は事情が少しちゃうねん、ボ謙也。








「――――……であるからして、」


一日どんよりとした気持ちで過ごして漸く本日最終講義。
疾うに定年を迎えたであろう風貌をした教授が化学式を黒板につらつらと書いていく。
もっとはっきり喋れや、聞こえないっちゅーねん。
まあ今のところは聞かなくても十分分かるが。


「(二日酔いするほど呑むとか……)アホちゃうか」
「何が?」
「酒癖が治らん俺」
「ああ、アホやな」


さらりと朗笑で毒づく蔵。
いくら自覚してるとはいえ流石に傷付くんやけど。
謙也も無自覚に傷口を抉る奴だけどまだあいつの方がまだマシだ。


「良い笑顔でバッサリ切り捨てるなや」
「えー? ホンマのことやしー」
「うわ、めっちゃムカつく……ん?」


サイレントにして卓上に放置しておいた携帯のランプが光る。
蔵は真横に居るし謙也も今は実験の時間のはずだ。
俺とつるむ奴は基本いつでもメールを寄越すからその中の誰かだろうと予想。
ちらり、真横の蔵が前を向いて授業に集中してるのを確認してメールを開く。



『腹と腰が痛いんで、今晩は雑炊がええです。何か買うてきて』



余りの衝撃に思わず額を机に強か打ち付けてしまう。
静かな講義室に鳴った音にほとんどの人が俺を見てきて。
でもそんなのが気にならないぐらい、予想外だった。
差出人も内容も。

……マジで俺やらかしたんちゃうか、これ。



孤独を愛する寂しがり





「腹と腰、大丈夫か?」


帰宅したなまえさんは心配そうに自室へやって来た。
眠い目を擦って頷けば「そか、今晩飯作るな」とどこかばつの悪そうな顔。
やっぱり気にしとるんやろか。
なまえさんが居なくなった部屋はやけにしんとしていた。






「……ん、ご馳走様でした」
「お粗末様でした……ざ、財前」
「何すか」
「ぜんざいも買うてきたんやけど、食うか……?」


なんて自信なさげな表情が新鮮だったけれどそんなのはおくびにも出さず「食べます」と即答。
そしてなまえさんから溢れたのは安堵を含んだ溜め息。
空になった食器類を片付けるなまえさんを視界に入れつつぜんざいを口に運ぶ。
あ、このぜんざい美味い。


「なまえさん、このぜんざいどこのなん?」
「……美味ない?」
「いや……美味いっすわ」
「ホンマ!? 良かったー……色んな奴に聞きまくった甲斐があったわ」


台所から不安な声が飛んできたが、俺の言葉に声だけでなく本人も飛んできた。
その顔付きは安堵を通り越して嬉々とした幼いもの。
それを可愛いと認識する前に俺はなまえさんの単語に反応した。


「? 聞いた?」
「せや! やけど全員違う店言いおってなぁ」


皆物知りやわ、なんて嬉しそうに楽しそうに話す。
なまえさんは謙也さんみたいに社交的で面白くてサークルでもムードメーカー的存在。
片や俺はいつも仏頂面で(それ位の自覚は持ち合わせている)サークルの時以外は基本一人。
その方が自由気儘で楽。

だけれどもなまえさんが話す皆に俺は含まれることはなく。
なまえさんの中での俺の立ち位置はあくまでもサークルの後輩であって、それ以上でもそれ以下でもない。


「財前」
「! ……はい?」
「風呂沸かすけど、入れるか?」


笑顔が突然真顔になって、此方の機嫌を窺うように真っ直ぐ見据えられる。
本気で心配してくれてるようだ。
腹痛は裸で寝たことによる冷えからだし、腰の痛みは夜通しなまえさんに抱き付かれていたから。

……、結局なまえさんの所為やん。
無言のまま見返していたらどう捉えたのか、なまえさんの眉が情けなくハの字に垂れた。


「やっぱ、辛いん……?」
「や……も大丈夫なんで。風呂、入らせてもらいます」
「そ、か……うん。じゃ、沸かしてくるわ!」


たった一年の壁はやっぱり高くて、謙也さん達がどうしようもなく羨ましかった。
取り残されたダイニングでは風呂を洗う音が僅かに聞こえて、なんだか遠い。




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