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呼び出されて向かった先は放送室だった。
あいつらしいといえばそれまでだが、恐らく他に良い場所がなかったんだろう。
ちゃんとノックしてから中に入れば暗い表情をした謙也が出迎えてくれた。
いや、まあ呼び出した張本人が迎えないでどうするんだという話だけれど。


「……なあ、ユウジ」
「あー?」
「ユウジはなまえと幼馴染、やったよな……?」


“なまえ”の単語を発するときに怯臆が混ざり震えたのを俺は見逃さない。
これでも洞察力は長けている方だ。
ここ最近で謙也のなまえに対する態度が180度変わったのではないのだろうか。
以前は、もっと。


「せやな」
「ならっ、あいつを止めたって……!」


俺の肯定を聞いて謙也は泣きそうに顔を歪ませた。
懇願の内容はなまえの制止。
常時人と目線を合わせる謙也が今日に限っては全く合わせないで俯いてる。
しかも立っている事に困じたのかしゃがみ込んで己の肩を抱く。

小刻みに震える肩。
いつもの明るい謙也はどこにも存在していなかった。


「……無理や」
「! っな、何でや!? お前なら、なまえもきっと……ッ」
「確かに俺が本気で説得すれば、止まるかも分からん」


なら何で、そうありありと書いてある顔で謙也は俺を凝視してきた。
でもやっぱりその瞳を支配していたのは戦慄と恐怖。
俺の前でのあいつと同じ眼をしている。


「せやけどあいつ、なまえは……お前らが思っとる程強くないねん」
「は……?」
「悪いけど、俺は白石よりなまえの方が心配なんや」


俺の言葉に一瞬呆けた謙也はその意味を理解したのか(しかも後者だけ)わなわなと震えだした。
今度はさっきとは違う、怒りからくるものだ。
白石は謙也にとってかけがえのない親友なのは明らか。

でもそれは俺にも同じ事がいえるわけで。
ただやり方と対象者が異なるというだけ。

だからこそこんなにも顔を真っ赤にさせて掴みかかってくる。


「お、前ッ! 白石を見殺しにするんかッ!?」
「……そこまで白石が大事なんやったら、自分でなんとかしたらええやん。人任せにせんと」
「やっとるッちゅー話やッ! っせやけど……!!」


アカンねん。
胸倉を掴んでいた両手にぎゅっと力が籠る。
戦慄いて眼を伏せる様は泣いてると誤解させるほど弱弱しい。


「俺じゃ、なまえを……止められん、ッ」


咽から絞り出した声で言葉を紡ぐとYシャツを握っていた手は離れ、代わりに自身の顔を覆う。
俺より俄然背が高い筈の謙也が異様に小さく見えた。


本気で白石を助けたいのだろう。
だけれど己に助け出すだけの力などなくて。
結局何も出来んと傍らでその光景を見てるだけ。
それでも足掻こうと泣ける謙也が、ひどく羨ましいと思った。




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