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「え、……何これ」


二日酔いで頭痛と耳鳴りが酷い最悪な朝、午前10時。
講義が午後からのゆとりある平日、開口一番俺の口から飛び出た言葉はそんなものだった。
酒を浴びる様に呑んだ日はいつも真っ裸でベッドにダイブしているのが常。
そんな俺が真っ裸だったのはまあ良しとしよう。

だがしかし今回は違った。


「ん……、ぅ」


俺の横で小さく身動いだ人肌。
昨晩見た覚えのあるワックスが付いて痛んだ黒髪。
中学から(らしい)悪びれることなく開けられた五輪ピアス。


「なまえさ、ん……はよー、ござ、ます」


財前光。
大学で知り合った友人・忍足謙也の中学時代からの後輩で、現在進行形で俺の後輩。
朝の挨拶をした財前はまだ夢の中なのか無防備な顔を晒している。


「今、何時……すか」
「えと、10時ちょっと過ぎ……やな」
「ん……今日、講義ないんで……寝てます、わ……」
「お、おん……ゆっくり休みぃ」


夢現で頷いた財前は再び布団の中で丸くなって健やかな寝息をたて始めた。
そして問題はそこではない。
いや、財前がこの場に居るのもかなり重大事件には変わりないが。
それよりももっと大変なことが目の前で起こっている。

真っ裸なのだ。
俺だけではなく財前もが。


「(え……何、俺やらかしたん?)」


酒に見境がないから自重しようと決意したのは記憶に新しい。
なのに!
俺は酒の勢いで一夜を共にしてしまったのか、しかも後輩と。
下半身を見る限りその行為を物語る要素は無かった。
がしかし自分の酒癖には自他共に悪評が認められている。

いつか酒で失敗するんちゃうか、なんて笑ってた謙也と白石の顔が脳裏に浮かんで。
いやいや、マジで洒落にならんっちゅーねん…。
渇いた笑いが部屋に響く。


「(いや、まさか……でも、あーッ、自分が信用出来ん!)」


取り敢えず服を着て、財前の分の朝食も作ってダイニングテーブルの上に置いてきた。
大学へ行く途中で無い頭振り絞って思い出そうとしたが敢えなく挫折。
仕方なく昨夜の飲み会の時の様子を謙也に問い詰めると心に誓って脚を早めた。
頬を刺す風は少し肌寒くて、そろそろ秋が来るんやななんて現実逃避。

だけれど頭の中を占めるは財前の無防備な寝顔だった。



透明な嘘



なまえさんが大学へ向かった音を聞いて俺は布団から顔を出した。
別に狸寝入りという程ではないがさっきの寝息は嘘。
昨晩脱ぎ散らかしたはずの着衣は綺麗に整頓されていて、少し気恥ずかしい。
酔っ払ったなまえさんに「おれだけぬぐなんてふこーへーやろぉ」なんて緩みきった顔で服を剥ぎ取られた。
あわよくば一緒のベッドにと目論んでいた俺としては天にも昇る位嬉しかったのだが。


「なまえさん、焦っとったなぁ……」


ベッドの上で体育座りをして数分前のなまえさんを思い出して落ち込む。
確かに酒の所為でヤっちゃいましたーとかモラル的にあかんのはよう分かる。
でも、もう少し。


「っ、寒……服着よ」


ヒヤリとした空気が布の隙間から流れて、一瞬にして全身が粟立った。
素肌に擦れるなまえさんの布団。
なんとなしに顔を埋めれば鼻一杯に広がったなまえさんの匂い。
暫しの間寒さも忘れてその匂いを堪能する。

……俺、変態みたいやん。


「ア、カン……熱うなってきた」


一先ずこの熱をトイレで治めた後、タンスからTシャツジャージを拝借してもう一眠りする事にした。
その途中で見かけた朝食は有り難く食し、ついでに二人分の食器を洗っておく。

ベッドに潜り込んでまた香る匂いにここには居ないなまえさんの姿形を想像。
熱く火照り始めた頬を冷えたシーツに押し付け、無理矢理目蓋を下ろす。
起きたらなまえさんにメールしたらなアカンな。
冷蔵庫にはろくなもんが入ってなかった。


「なまえさん、好き……」


俺の呟きはなまえさんの部屋の空気に敢え無く霧散。
ここで言ったって伝わらないのに言わずにはいられない。
というよりここで吐き出しておかないといつぼろを出すか分かったもんじゃなかった。




そしてこの後、一度目が覚めた俺は謙也さんも吃驚な速さでメールを打った。
これを受け取ったなまえさんの狼狽した顔が簡単に想像出来て「ええ気味や」思たんはここだけの秘密。

送信が完了しましたの文字を確認して。
俺はなまえさんが使うてる枕を抱き締めて二度寝ならぬ三度寝をする体勢をとる。
早う帰って来んかな……。




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