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朝練にやってきた白石の様子が少し変だった。
利き腕を吊っているのに変わりはないが、目元が僅かに赤らんでいる。
朝練終了後、教室に向かう途中でなまえを発見。
瞬く間に激しくなった脈拍は動揺に忠実だ。
白石といえば熱っぽい視線をなまえに注いで、奴の一挙手一投足をガン見していた。


「……どないしたん、白石」
「っえ、あ……な、なんでもあらへんよ」
「……」


一限の授業が始まると直ぐにポケットから携帯を取り出す。
1分経たずに送信メールは完成。
浪速のスピードスターを舐めんなっちゅー話や。
再度宛先を確認して右手の親指が送信ボタンを押した。






昼休みの放送室。
俺以外に生徒は居らず、後は奴を待つだけ。


「謙也―? ……用事ってなんなん?」
「来てくれたんやな」
「……時間がないねん。早よせぇ」
「ほなら、単刀直入に言うわ」


気を抜けば笑いそうになる膝を叱責してなまえに一歩近付く。
今日は機嫌が悪いのかはたまた俺の前だからなのか、顰め面の奴。
見下した蔑んだ瞳に射抜かれそうだ。


「これ以上、白石を傷付けんといてや」
「はあ?」


全身全霊を込めて発した言葉はいとも容易く返される。
先ほどまでの不機嫌な表情はその形を潜め、今なまえの表情は驚愕に満ちていた。
一拍の間を開けて、おもむろに口を開くその顔つきは至極愉快そう。


「なんやそんなことかいな」
「ッ!?」


なまえの言葉が終わるか終らないかの瞬間に突き飛ばされる。
着地点は勿論、硬質な床。
全く唐突な行動に受け身を取る暇さえもなく。
叩きつけられた背中、体重に加算された衝撃に一瞬呼吸が止まった。
ダンッ、耳元すれすれに落ちてきたのはなまえの両手。


「白石か?」
「は?」


今度はこっちが呆ける番。
だけれど、無表情に変貌した奴の顔立ちは恐怖の対象にしか過ぎない。


「白石の差し金かて聞ぃとんねん」
「ッ白石は関係あらへん! 俺が勝手に、お前に言っとんのや!」
「ほお」


脳内が正常な判断を下せるはずもなく、奴の意図を理解するには及ばなかった。




「白石はお前のこと本気なんやで!? それを、お前はッ」
「黙りや」




ガッと大きな左手が俺の首根を捕らえ、込められた力に気道は圧迫される。
ひやり、冷たい汗が背筋を伝った。


「随分、ダチ思いやんなぁ」
「っ……なまえ、」
「そんなら、ダチのために身体差し出せるか?」


首元を押さえていた左手で胸板を軽く撫でる。


「したら、考えたってもええで」


ぞわりと粟立つ全身。
その感覚に確かな吐き気を感じた。
遠くで昼休み終了のチャイムが鳴る。




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