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今日も普通の学校生活に変わりはなく、小春とのラブルスも順調。
唯一可笑しいと言えば、謙也の挙動不審さと白石の左肩だろうか。
どちらも大方予想がつくあたりに付き合いの長さを噛み締める。
部活が終わって、新着メールに目を通した。

『帰宅して時間があったら電話が欲しい』

差出人はなまえ。
奴とは幼稚園来の所謂幼馴染の腐れ縁というやつ。
そして、こちらもまた奴の言いたいことというかやりたいことが分かるだけに溜め息が抑えられない。
玄関で出迎えてくれた母親の横を擦り抜けて、足早に自身の部屋へ向かう。


「……もしもし」
『、ユウジ……』
「お前、いい加減にせぇよ」


開口一番の文句。
電話口で息を呑む音が聞こえた気がした。
前から思っていたが、奴との電話は雑音が酷い。


『……まだ、何も言うてへんわアホ』
「言わんでも分かる。何年幼馴染やってると思てん」
『10年は越えてんなぁ』
「真面目に答えんなやこのドアホ」


投げ遣りな言葉をそのままにベッドに身を委ねる。
自重によってベッドの床は僅かに沈んだ。

携帯という媒介の向こう側でなまえは沈黙を貫いていて。
数秒待ってはみたが、膠着状態のこの空気に変化はなさそうだ。
コホン、小さく咳払いをしてみて喉の調子を確かめる。


「……ホンマなまえは世話がかかるわぁ」
『! 、ユウジ』
「ユウジ、? ……ああ、一氏くんのことやね。何で今彼の名前が出てくるん? 可笑しななまえ」
『蓮華……、』
「なん?」


持ち得る全ての技巧を凝らして体現するはなまえのかつての恋人。
女の声真似をしながら自身の性別を疑いたくなった。
俺が物真似をするのは専ら男で、でもなまえの元恋人は女で。
頭も喉も心もフル稼働、まさに全神経を擦り減らしての作業だ。


『好きやで』
「っ、……ホンマにどしたん? 今日のなまえ変やで」
『堪忍。……なぁ、蓮華はどうなん?』
「どうって……」
『俺のこと好きか?』
「……アホ。ウチが好きでもあらへん男と付き合うと思てんの」


台本も見本もない言葉の羅列の上、最も厳しい性別の壁。
スピーカーを通してなまえの含み笑いが聞こえる。
どうやら俺の返答は奴のお気に召したらしい。
せやな堪忍、なんてまた謝罪を口走って再度「好き」と囁くなまえ。
ホンマ重たいやっちゃな。

この後も奴と俺の茶番は続いて、俺が解放されたのは22時少し手前だった。


「……スマンな、白石」


ブツリと切れた携帯を眺めて無意識的に零れた謝罪。
きっと奴はこの後白石を身代わりにする。
それを分かってて俺はなまえの望みに応えたのだ。




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