long | ナノ




「どしたん白石ッ!? その腕、!」


放課後、部活の合間。
私服姿で左腕を吊った白石がコートに現れた。
夏にもかかわらず長袖長ズボンの格好はかなり異質だ。
顔のいたるところにも絆創膏が貼ってある。


「すんません、ちょお激しく転けてもーて」
「転けてもーたって……どんな転け方したらそんなになるねん」
「俺もまさか砂利があるとは思いませんでしたわ」
「お前なぁ……」


困惑した顔付きで頬を掻く監督。
まだ大会まで時間があるとはいえ、この時期の怪我が少なからず影響するのは白石も分かってるはず。
だから。


「全治2週間らしいわ」
「……試合も素振りもやったらアカンで」
「分かってますて」


自業自得やし、そう言って苦笑いを浮かべた白石。
誤って転んだなんで嘘に決まってる。
原因はみょうじに違いない。そうでなければ、白石はあんな顔して笑わない。


「蔵!」
「! なまえ!」


事の元凶(この推測は間違っていないはず)がフェンスに近付いて来た。
完全に帰宅準備を整えていた奴は心配そうな面を被っている。


「どやった?」
「打撲やて。全治2週間」
「……ごめんなぁ、俺も傍に居ったのに」


悔しそうに唇を噛んだみょうじに白石は微笑みかける。


「俺が不注意やったんやて」
「やけど、」
「なまえの所為やない」


あんな笑みを向けてもらえるなんて、贅沢なことなのに。
あの仮面の裏では当然にさえ思っているのだろう。
心配の色を残して白石を窺うようにみょうじは口を開く。


「……送ろか?」
「ん……や、軽い筋トレだけでもやってくさかい」
「そか。分かった」


もう一回「堪忍な」と発してみょうじは帰って行った。
一般部員はいつもの光景と受け流して誰も何も言わない。
それどころか「送ってもらえば良かったやん」なんて言う始末。
優しいなみょうじは、だって?
冗談じゃない。


「白石」
「なん? 千歳」


褒められるべきは白石であって断じてみょうじではない。
無意識か否か分からないが、みょうじを追っていた視線が俺を捉えた。
白石の視界に俺が入れる唯一の時間。

「無理せんね」
「ん。ありがとな」


桜色の頬は昔から綺麗で可憐だ。
何度彼をこの腕の中に収めたいと思ったことか。

俺らの沈黙を尻目に周りは着々と部活に戻り始めていた。
じゃあ、と背を向けようとした白石の右手を掴んで引き留める。
不思議そうに小首を傾げる白石はやはり可愛い。


「何でみょうじを庇うと?」
「……庇ってへんよ」


振りほどいた腕は弱弱しかった。
何故誰も気付かないのか。
時折見せるみょうじの鋭利な眼差しに。
人気者の内に隠れた蔑視を含む態度に。




戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -