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「で、何を俺に聞かせたいん? 謙也」


ぽいっと、実に軽々しく携帯の残骸を床に棄てる。
思考が追いついていかない状況下での深慮は結局意味を為さない。
遠くで人の足音が聞こえる。
口を開けて言葉を発しようとするけれど音には成らなかった。


「謙也?」


此方を窺うように覗き込んでくる。
思わず後ずさりしそうになって、必死に動かないよう堪えた。
意識を集中すればするほど震えがあからさまになりそうで。


「顔色悪いで、大丈夫か?」


表情に浮かぶのは確かな心配の色。
白々しい。怒りよりも怖さが上回った。
数分前の出来事が無ければ素直に受け取れたのに。


「なまえ。待たせてスマンか、……謙也?」


ごく自然に教室に入って来た白石は不思議そうにこちらを見る。
俺が居るのは予想外のことだったのだろう。
たたっと近付いてくる白石。
あと少しで手が届く位の距離まで寄ったところでなまえの雰囲気が豹変する。




「お前、何気取られとんねん」
「? 何のこ、……ッ!!」
「ひッ!」




ゴッ、硬いもの同士が衝突する音の発生源は机と、頭。
なまえの右手が抵抗を許さない。


「この前の電話、まだ繋がっとったんやって」
「! 謙也、聞いてたん……?」
「お、おん……」
「ご丁寧に録音までしおってからに」


冷めた声と表情。
向けられているのは自分で無いにもかかわらず圧し掛かる圧力。
その姿に普段の人気者の片鱗も見受けられない。


「まあ、ええわ。もうあらへんし、せやろ?」
「! ッ、」


渇ききった声帯では平生を保てなくて、頷くことでこちらの意思を伝える。
にこりと、なまえは俺に笑いかけて鞄を肩に背負った。


「じゃ、俺は帰るわ」
「あ、ああ」
「……せや、白石」
「、っなん……?」
「謙也のことはお前にまかせたわ。それと」


入口で再度振り返って、白石のみを睥睨。
小さく肩が跳ねたのを俺は見た。


「今日は来んな。俺へのメールも電話も禁止や。他の奴へは好きにせぇ」


乱雑に教室の戸を閉めた奴の足音が完全に聞こえなくなったところでようやっと緊張が解けた。
そして、頭を押さえてる白石に慌てて近寄る。


「ッ大丈夫か!?」
「大丈夫や、これぐらい……いつもより軽いわ」
「……いつもこんなんされとんのか」
「……、……これでええんよ」
「、ええわけあるかッ! お前暴力受けとんのやで!!」


怒鳴るつもりなんてなかったのに、つい語尾が荒がった。
でも、白石はそれを咎めることもなくただ弱く微笑む。




「こうせなあかんのや、だから謙也……このことは誰にも言わんといて」




お願いやから。
俺の腕を掴んで顔を埋めて絞り出した声は泣きそうだった。




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