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いつも耳の目の奥深くに燻ぶっている。
ひどく傷付いた声と顔が消えない。


「っん、は……なまえ、ッ!」


暗闇に慣れた目で白石の頬を力任せに一発殴った。
理性を飛ばして悦に浸ってた呻き声が違う色を含む。
痛い。殴ったこの手が。


「そないな声でアイツは呼ばん、気色悪いわ」
「堪忍ッ、っあ……、なまえ……?」
「今日は止めや」
「待っ! 次は気ィ、付けるから……止めんといてッ」


赤く熱を持った頬を気にも留めず、力の抜けた腕がこちらに向かってくる。
それを無視して横っ腹を蹴飛ばすことでベッドから落とした。
こんなことぐらいで奴自身は萎えるはずない。
潰さない程度の加減をして踏みつける。
ぁうっ、苦痛と快楽が混ざった声に困惑を露わにした表情。


「お前にはこれで十分や」
「え、……ぁあッ、っぅ」
「足でも感じんのやろ? この変態」
「ああッ、……ぁ、っは、あぅ!」
「相変わらず早漏やんな、蔵は」


呼吸を整えようと必死に肩全体を上下させている。
吐き出される空気が熱を持って。
下半身がまだ微かに痙攣していた。
生理的な滴を携えた双眸は俺を朧気に捉えている。


「っなまえ、……は、っうぶ!」
「……お前の出したやつの所為で俺の足汚ななったんやけど?」


この意味分かるよな、言外に含ませて。
おずおずといった表現が良く似合う行動の遅さだった。
くぐもり声と荒くなる吐息が足の裏の表皮を刺激する。
指の間も確り舐め取らせれば粘り気の代わりに帯びる湿り気。


「またイッたんか」
「やって、……なまえん、気持ち……ええんよ」


涙で鼻水で唾液で汚れた顔を晒して辱めを受けて。
こいつはなお俺に向けて嬉しそうに微笑む。


「……っは、そりゃ良かったな。淫乱」
「っ、どこに、行くん……?」
「シャワー。今日は終いや」
「……おん、分か、った」
「自分の身体は自分で何とかせェよ。俺はやらんからな」


分かっとるよ、いってらっしゃい。
かたかたと身体を支えるには弱々しく震える腕で身体を持ちあげて。
微笑で俺を見送った。


寝室のドアを閉めて浴室に籠れば忘れかけた雑音が激しくなる。
途中寝室であいつが倒れた音なんて聞こえない振りをした。


『なまえ……ッ!』
「なまえ……ッ!」
「、ッうるさい!!!!」


声が重なって鼓膜を揺らす。
子供のように叫んで耳を塞いでしゃがみ込んで。
鏡に映った自分自身はとても醜かった。
喚き散らすのなんて至極簡単なことだけれど、そこに意味は無い。




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