――――ここじゃ君は甘い俺の所有物で逆らうなんてことは出来ないのだ。
どうせあれほど熱い夜も一晩で冷めてしまうのだから。
事実、朝を迎えるとそれは魔法が解けたかのように一瞬で、瞬く間に元の温度を取り戻してしまう。
そう諦め顔で白石は気だるい身体を起こした。帰ろうというのだ。
情事中に見せた、魅せるような熱い瞳はもうない。
もう、思い通りにはならない。
「……しら、」
「そんな手で触れんなや」
だから、そんな熱くもない手で触らないで。
素気無く手を叩き落とす。
その姿はまるで欲しいものを買ってもらえない駄々っ子のようで。
たった一晩で生じた矛盾は子供染みていると笑われるだろうか。
白石、なおもめげず声をかけられ、その窘めあやすみたいな声音が白石の琴線に不快に触れた。
「……話す事なんて何もないやろ。自分には、もう興味がないねん」
事の関係が始まるのが早いのなら、それに相応して終わりも早く訪れる。
解っていて敢えてやっているのだ。救いようがない。
解っているからこそ、余計にみょうじには真を覚られてはならなかった。
なぁ、心の中からみょうじに向けて呼びかけてみる。
吐き出したいことは沢山あるような気がする、が白石とみょうじはそんな間柄ではない。
「周りが誘われてんのに、俺だけ仲間外れみたいやんか」
「……」
「ただ、それだけや」
最大の昂りの瞬間はすぐに消える、まるでショットガンの如く放たれて消える。
関係もまた然り。ならば傷口は最小の損害で済まそうというのが当然の心理だろう。
本来ならば二人は今までもこれからも二度と繋がる事のない他人なのだ。
「……でも、まあ……気持ち良かったで」
片思いとは、ボロ雑巾のように捨てるか捨てられるかの世界のようなもので。
深く愛す事があればどちらかが傷付いてしまう。
もしかしたら両方とも手遅れになるぐらいの深手を負うかもしれない。
「(こいつは、何も思ってない……昔も今も、そしてこれからも……!)」
だったらいっそ今日という一回の感情的な遊び事という戦場で終わらす方が良いに決まってる。
もう構うな、なんてちょっとの間の自棄と。
もう触れないで、なんて感傷的な炎症を消すために、今日も真っ白になるぐらい感じたい。
飽く事無く身代わりを使い捨てて、蟠りを塗り潰すのだ。
「違う」
「は? 何がや」
「お前、この5年で変わったな」
「…………っは、言うたやろ。5年も経てば人間は変わるんやて」
「嘘が下手になった」
「ッ、!?」
真っ直ぐ射貫く眼差しが苦しい。全てを見透かされているような。
それはひどく白石にとって心地悪いものだった。
純愛物語のような本当のラヴソング、なんてそんな綺麗なモノはここにはない。
醜く卑しい最低の存在に落ちて朽ちてしまったのだ俺は、そう忌々しげに唇を噛み締める。
その姿は愛に飢えた哀しいもので。
向けられた視線が憐憫を孕んでいるように白石には感じられた。
それが事実か否かはどうでも良い事柄で、反射的にかっと顔に熱が集まる。
「白石、俺は「待ちや、!」
話し出した出鼻を挫いて、怒ったように困ったように顔を顰めたみょうじ。
けれど従順にも白石の言葉通り口を噤んだその姿に、諦めていた空気が舞い戻った。
絶好の瞬間だ。
もしかしたら、望んでいた事が起こり得るかもしれない。胸が躍る。
空っぽのここにみょうじの熱いショットガンで終止符を、その言葉で撃ち抜いて。
絶対に離さない、こんな好機を逃して堪るか、と挑発的に笑った。
――――ここじゃ君は甘い俺の所有物で逆らうなんてことは出来ないのだ。
だから、早く、求めて止まない、それを、頂戴。
「……言うなら、はっきりと頼むわ。他に疑いようのない言葉で、明確に」
「――……俺は、お前が、……好きだ」
漸く叶った。漸く報われた。
しかしながら、ハッピーエンドには遅過ぎた。
この身体はみょうじの横に立たせるには汚れ過ぎた。
ショットガン・ラヴァーズ
-撃ち殺す-
(おおきに……俺も、好きやったで)
(だけど、明日にはお別れや)
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