「なまえ―っ! 俺のムーンサルトちゃんと見てけよな!」
「おー」
本来は部外者立ち入り禁止であるはずのテニス部敷地内。
俺は岳人に連れられて、どうやら関係者とみなされたようだった。
嬉々として叫んだ岳人を侑士が宥めて二人はコートへ入っていく。
跡部と榊先生(いや、監督と呼ぶべきか?) は互いに何か話し合って、先生はどこかへ立ち去った。
「みょうじ」
「んあ?」
「お前は今日からコートへの出入りが自由になった」
「うえ?! な、なして…?」
想像してなかった衝撃の言葉が跡部の口から出てきた。
今まで散々部外者は邪魔なだけだと言われ続けてきたというのに。
一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
驚きのあまり目を見開いたまま跡部を凝視ていたら、コートの方から上がった歓声。
慌ててふり返ると丁度岳人が華麗にムーンサルトを決めたところだった。
よくあんなに跳べるよな。しかも心成しかいつもよりも高い気がする。
いや、いつもって程見てるわけじゃあないんだけど。
「岳人、少し飛ばし過ぎやで」
「ああ?! そんなことねーって!」
「……なまえが見とるからて張り切り過ぎや」
負けたくないやろ、諭す侑士はやはり冷静と言えるだろう。
図星だったのか一瞬詰まった岳人は「…おう」と小さく呟いたっきり口を閉じてしまう。
とんとんと軽く確認するようにジャンプをすれば、大きくゆっくり深呼吸。
「ぜってー負けねぇ」
「覚悟しとき」
そう言って侑士共々相手を見返す姿は可愛くて、カッコ良かった。
この後良い意味でペースダウンした岳人は体力の限界が訪れることはなく。
6-1という大差での圧勝。
交わしたハイタッチの音が高らかにコート上に響いた。
練習相手と二言三言話した後、額を伝う汗をジャージで拭いながら岳人がこちらへやって来る。
「なまえッ! ちゃんと見てたか!?」
「見てた見てた。岳人カッコ良かったよ」
「! だろ!!」
その表情は実に嬉しそうなものであったが、どこか安堵がちらついている。
試合に勝てたのだから嬉しいのは分かる。だけれど。
「跡部! ちゃんと勝ったぞ!」
「……っふ。忍足の手助けがあっての、だがな」
「っ、でも勝ったのは事実だ!」
「ああ。だから、及第点だ」
それじゃあ、と全く話について行けていない俺を無視して岳人の顔が綻んだ。
そして岳人の後ろでは侑士がやれやれと言った苦笑を浮かべている。
え、一体何なの。何でそんなに岳人は喜んでるわけ。
「みょうじの常時立ち入りを許可してやる。監督にも了承済みだ」
「よっっしぁああああ!!」
岳人との盛大な歓声を聞きながら俺はその場に立ち尽くした。
いや、意味が分からん。
Shout!
-心の赴くままに-
(取り敢えず、慰める様に肩を叩いて来た侑士の頭を叩く事にした)
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