「ッ、なまえくんのアホ! 分からず屋!」
「はあ? 蔵ノ介、頭固すぎ」
「! も、ええわ! 話しかけんなッ!!」
通りかかる人皆が振り替えってこちらを見てくるが、沸いた頭にはどうでも良くて。
ただ目の前の彼にもどかしさに似た怒りを覚えとった。
全部気付いて理解してなんていうのが無理なのは十分分かっとるつもりや。
でも、少しぐらい考えてくれてもええやないか。
脳内で先程のやり取りを思い返してずんずんといきり立ったまま教室に戻った。
あー! ホンマに苛つく! 絶ッ対許したらん!!
***
と思っとったのが三日前。
早くも俺の頭の中は後悔と不安でパンクしそうやった。
突き放したのは俺の方だけれど、まさか本当に話しかけられないなんて。
「ぅー……なまえくーん……」
「なんや白石、三日前の『土下座したって許さんッ!!』っちゅー怒りはどしたん」
「やって……もう三日もなまえくんに会うてへん……ぅあー……!」
なまえくんは8組で俺は2組。
まさに端と端。部活もちゃう。移動教室もてんでバラバラ。
今まで会いに来てくれて逆に行ってを繰り返してたから感じたことあらへんかったけど。
その気になったら会わないなんて簡単やったんやな。
「……ユウジ、死なす……」
「うおいっ! 怖いこと言いなや……」
風の噂でなまえくんがめっちや告白されとるらしい話を耳にした。……気になる。
元々男女両方共に人気があったなまえくん。
俺と付き合うとるときは俺に遠慮してか告白やアタックはあんまなかった。でも今は。
あない派手にやらかした所為か下火だった告白等々が急激に増えた。
「なまえくん……ん? んん?!」
何気無く乗り出していた窓の下に目を向けて、見えたのは校舎裏。
居たのは待ち焦がれていたなまえくんと校内で一、二を争う程の容姿を持つ女子。
告白なのは明らか。
やって、頬がここからでも分かるぐらい桜色やし。
二言三言会話をして頭を撫でられた彼女は走り去って行く。
それをぼーっと見送って。
「蔵ー」
「(やっぱ女子のがええんかなぁ……可愛いし柔こいし小さいし)」「白石蔵ノ介ー」
「(……なんや自分で言うて哀しくなってきた)……はぁ」
「……蔵ノ介!!」
「うおっ?! え? 何? 何?!」
一人悶々と頭を抱えていれば下から大声で呼ばれた。
三日振りのなまえくんの声や……!
慌てて下をもっかい見れば、呆れたような乾いた笑いを浮かべているなまえくんが居った。
「一人でなに百面相しとんねん」
「ぁ、ぅ……なまえくんの所為や……ッ!」
「また俺かいな」
しまった、後悔先に立たず。
折角仲直りしていらん虫を牽制するチャンスやったのに。
俺のアホ!アホノ介!
「まぁ、今回は俺も悪かったしな……」
「……? なまえくん?」
「蔵ノ介ー、仲直りしに今度出掛けよーや!」
「! 行く! 行きたい!!」
よっしゃ決まりや、そうはにかんだなまえくんに胸がきゅんとなる。
自身の席に付けば謙也がやれやれといった表情で「良かったな」言うてくれた。
砂上のキャンバス
-描いて消してまた描く-
(元通りもお手の物!)
←
×