short | ナノ
(ボカロ×テニス/蝶々P/Love Trigger/sm15751190)




飛び散った透明な滴と白濁とした滴。
液という液に塗れた身体がぐしゃぐしゃのシーツの上に晒されている。


「――――っは、……ぁ……ん……」


思考回路を掻き乱す喘ぐ声はさっき聞いた。
表情を歪めて肩で呼吸を整える謙也。
そんな奴を後処理しながら眺める。
つい数秒前までしていた蕩けた顔に掠れた声。

ぐらり。少しだけ意識が揺れて、甘い甘いこいつにちょっとだけ酔ったようだ。


「……謙也、好き」
「ん、……おれも、好きやで……」


小さく、本当に小さくそう囁いて。
殆ど音を成していない声で謙也も応えた。
汗ばんだ髪を梳くように指を通して、身動いた奴は眠りの彼方へ。

静かな寝息。閉じられた双眸。

今まで見えてたモノが見えなくなる度に俺の胸をチクリと刺していく。


俺は謙也が好きだ。
特に、あの太陽を彷彿させる眩しい朗笑が好きで堪らない。
どんな時でもその笑みを浮かべていて欲しいと望む程に。
勿論そんなことは在り得ないし望んだところで叶う筈もない。

付き合ったのは中学3年の学祭の時。
当時から持ち前の性格と容姿で人気があった奴に玉砕覚悟で告白して。
頬を赤く火照らせた謙也の表情を今でも覚えている。


「……4年、か」


午前12時を通り過ぎた時計の短針を見つめて呟く。
今日で丁度謙也と付き合い始めて4年という月日が経った。
周りとの比較に過ぎないけれど、そこそこの長さだろう。

年齢。環境。交友関係。政治。経済。この4年で色んな事が変わっていった。

だけどこの気持ちだけは今でも同じで良かったなんて、馬鹿みたいに思ってる。
けれど。ずっと一緒に居たいね、昔にそう語り合ったのを今も謙也は。


「 す き 」
『ん、……おれも、好きやで……』


死んでく謙也の言葉と残された俺の言葉が、宙に舞って俺の目の前を飛んでいった。
毎日のように繰り返して。その度にどんどん言葉が消失する。

枝もたわわに実るような何とか、なんてよく言う表現だけれど。
正にその通り。膨らみに膨らんで、寧ろ熟れ過ぎなぐらいだ。

きっと向けられる謙也からの怨嗟の声も大概だろう。
でも、聞きたくないから今日も耳を塞いで目を背ける。
だってそれを受け入れたら。俺は。



***





「や、……ぁッん……! っは、ァッ……ぁ、――も、……あか、んっ」
「……っ、我慢しないで……イけば?」
「――ッあ、ちょ……そ、れあか……んぁ、……ぁ、あ……っ!」


「もう抑えきれない」なんて涙声で訴えかけられて。
悩み続けるぐらいならイっちゃえば良いと唆す。

決して細いとは言い難い腰を支えながら、ぐっと更に押し込んだ。
すると謙也は俺の首に腕を回し引き寄せて、近まる距離。
ただ一度だけ「これ」が好きだと言ったことがある。
より身体が密着するから、その存在が明確に認知出来るのだ。
それ以来謙也は「これ」をしてくれる。

俺がしがみついただけでいつだって苦しそうにするくせに。毎回欠かさず。
女みたいに上擦る声が途切れ途切れに鼓膜を振動させて。
いつか消えてしまうかもなって、実は少しだけ不安。
それを吐き出すように今日もまた謙也を突いて、啼かせる。

俺の好きな顔と程遠い顔をさせる。




――――お前の事好きだよ

――――怖いくらい好きだよ

――――証拠なんてないけど

――――黙って見ててよ




頭の中で俺の声で俺じゃない誰かがせせら笑っていた。
激しさを増す動きに合わせて謙也が腰を揺らし、必死に目を瞑っている。


「謙、也……!」
「あぅ、な、に……っあ、ふ……」
「っ俺の事……好きでしょ?」


突然の問いかけにも健気に首を上下に振ることで応える。
目開けて、少し投げ遣りな言い方にびくっと肩を揺らし従う謙也。
その瞳には薄く膜が張っていた。


「ほら……前みたいに俺の事好きなら、……キスしてみてよ」
「っ、――――……!」


黒い瞳に映る半笑いな俺。
堪え切れなくなった滴が遂に目尻から零れ落ちて、唇が奪われる。
どんなときだって何をやるにしたって理由はいつも単純明快。

笑う顔が見たい、ただそう思うだけで。
それ以上でもそれ以下でもなくて。でも。
薄暗い寝室。離れていく謙也の顔は、涙痕で埋め尽くされていた。

初めてのキスは放課後の教室だった。
離れていく謙也の顔は、嬉しそうにはにかんでいて。
遠い記憶と現実が交錯して重なって弾ける。過去とは程遠いその表情。
この空間に居たらそうなるだろう。分かり切ったこと。

じゃあ、ここに居るのは何故なんだろう。


「……一緒にイこうか」
「え、……っひ、あッ……っ、ぁ、……!」
「っ謙也……す、き……!」
「あ、っ……ン、……も、イくッ、ぁ、……イっ、――ッ!!」


腰に回った脚と内壁がきつく締めて、俺も身体を震わせた。
飛び散った透明な滴と白濁とした滴。
液という液に塗れた身体がぐしゃぐしゃのシーツの上に晒されている。
ふるふると余韻に打ち震える姿はいつ見ても艶めかしい。


「――……なあ、”想い描いたもの”って俺ら二人なら叶うかな」


倦怠感が付き纏う腕を伸ばして。しがみついただけで既に精一杯でもいい。
ぼそりと発した拙い言葉で、上手く伝わるかって実は少しだけ不安だった。
それを振り払うように今日もまた抱き締める。
疲労なんてそっちのけに、腕の中に収めた謙也の身体が愛おしい。

でも、謙也からの返しはない。




――――お前が俺に必要ならきっとそれが引き金だ




俺には謙也が必要で。謙也以外有り得なくて。
きっとそう思ってしまったのがそもそもの始まりだったんだ。
身体の内から溢れ出す想いがもう抑えきれない。


「……なまえ、……?」


――――そうやって悩み続けるならいっそ言えば?

――――「君が大好きだ」って全て曝け出して言えば?


俺の姿をした誰かが焚き付ける。そうすればきっといつだって俺は俺でいられる。
吐き出した分だけ俺の中は軽くなる。


「……謙也、」
「ん……?」
「謙也……好き、大好き。他の何よりも……好きだよ」


絞り出した言葉。
腕の中の謙也はそれをただ無言で受け流して。
知っとるよ、そう掠れた声で応えた。




Love Trigger
-“せかい”に向けて引き金を引いた-



(それだけで俺が居るこの”せかい”は変わる)
(それが、こいつと同じ”せかい”かは定かではない)


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