short | ナノ
粉雪がちらほらと舞い出す季節。
1oにも満たない真白なそれはところ構わず触れて、水滴へと形を変える。
吐き出す息が一時的に白く姿を現すぐらい気温は下がったが、薄くでも積もるにはまだまだ先のようだ。


「……ふー……腹減った」
「さっき肉まんば食っとっとに」
「成長期の食欲なめんな。あんなん間食だよ間食」
「みょうじは細かばってんようけ食うとね」


意外そうに目を丸くさせた千歳。
その鼻頭や頬が吹き荒ぶ冬の空風によって赤く染まっているのを横目で見やる。
にこにこと邪気なく笑う奴を一歩追い越して、ふと食欲を擽る美味しそうな匂いが鼻腔を掠めた。

風は向かい風。数m先には簡素な立看板。そこはラーメン屋だ。

こんな寒い日には持って来いの食べ物だろうな、心の中でぼやく。
どうせ食べられはしないのだからここはさっさと通り過ぎるに限ると歩調を早めた直後。
ぐいっと強く腕を引かれた。


「! みょうじみょうじッ!!」
「っおわ! な、なんだよ急に」
「トトロラーメンばいっ!」
「は、あ?」


素っ頓狂な声が漏れる。
トトロラーメン?トトロに恋い焦がれる余り遂に頭がいかれたか。
本当にそう思ったが、キラキラと輝かせた視線の先を見て合点がいった。




トロロラーメン 780円






「(……似てるっちゃ似てるけどなぁ)」
「はあ……トトロに会いたかー……」


ほう、と愛おしそうに看板を眺める千歳の横顔に悪戯心が沸いて口端がつり上がる。


「トトロラーメンって何入ってるんだろうな」
「……え?」
「トトロの肉だったりして」


しん。不意に起きた沈黙。

俺の浮かべた笑みが場違いに思える程に千歳の顔は青褪めていた。
ガシッと音がしそうなぐらい素早く両肩を掴まれて、口早に畳み掛けられた言葉に呆気に取られる。


「いかん……トトロに伝えないかん! みょうじ手伝ってくれんね!?」
「……は? ええ?」
「みょうじ急ぎなっせ! トトロの命に関わるばいッ」


至極真面目に言っている千歳は端からみたら相当な変人に見えているだろう。
どこに行く気なのか、俺の腕を引っ張りながら長い脚を進める。

これは不味い。実に不味い。まさか本気でとられるなんて。


「ちょ、千歳! 待てって……!」
「何ね!? 早よせんとトトロが……っ」
「俺が悪かった。悪乗りが過ぎた。頼むからもっかいちゃんと看板見ろって!」
「え……、ぁ……っ!」


数秒の沈黙の末。
漸く自身の間違いに気が付いたのか、小さく声を漏らして顔を真っ赤に染めた。
どうやらトトロ探しは免れたらしい。




よくありますよね
-読み間違いって-



(……恥ずかしか)
(それはこっちの台詞だ……)


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