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この時期にはかなり珍しく白雪が降る今日、俺達は卒業式を迎えた。
一歩外へ出れば吐息が白くなるぐらい気温は下がり寒い。
なのに人口密度過多の体育館だけが異常な熱に包まれていた。

式が終わり中学最後のHRもあっという間に終わり、この教室も最後かと思うと感慨深いものがある。


「白石! 卒アル書いたって!」
「ええよ。なら、謙也も書いといてな」
「おん! あったり前や!」


誰が誰のか分からない程至るところに広げられていている卒業アルバム。
最早自分のさえもどれか判断出来ない。
辛うじて謙也のを見付けれたが順番待ち。
しかもそれは謙也も同じだった様で、部室に行くのが当初の予定より遥かに遅れてしまった。

部室には後輩が既に集まっていて中には泣いてる奴もいる。
その様子を見ていると良い後輩に恵まれたと不謹慎ながらも嬉しく思った。


「部長……」
「こら財前、その呼び方は止め言うたやろ。今の部長は自分なんやから」
「せやかて、ッ……!」


部長は部長ですっ、絞り出した声は涙で掠れていて正直かなり驚いた。
あのクールで何事にも無関心だったあの財前が俺らの卒業で泣くなんて。
嗚咽を漏らし完全に泣き出した財前の背を撫でた副部長のなまえは対照的に涙一つ浮かべていなかった。

それはそれで複雑な気持ちだ。
いくら恋人同士故にこれからも会えるからとはいえ、少し位泣いてくれたって良いのに。


「卒業おめでとうございます」
「……なまえは泣かんのやな」
「部長副部長ぼろ泣きは流石に後輩に面目たたないんで」
「意外やな! ぼろ泣きすんのはなまえや思てたわー」
「謙也先輩失礼っすよー」


後ろを振り返ったなまえは後輩の一人から小包を受け取ると「後輩全員からの卒業祝いになります」と一人ずつ渡していった。
そして俺達の追い出し会は瞬く間に終わりの時間を迎えて、部室に俺となまえだけが残る。
暫くの間棒立ちのまま、背を向けていたなまえが不意に俺の方に向き直った。


「白石先輩、卒業おめでとうございます」
「結局、最後まで泣かんかったな」
「ああ……そうですね」
「薄情なやっちゃなぁ」


俺はなまえに泣いて欲しかったのだろうか。
なまえを見上げて思いを巡らすも良く分からず、乾いた自身の笑い声だけが虚しく部室に響く。
俺はなまえに何を求めてる?
少なくとも誰でも口にするような在り来たりな祝辞ではないはず。


「白石先輩」
「……なん」


芯の通った聞き取りやすい声がふと揺らいで。




「も、四天宝寺に……居ないん、ッですね」




なまえの頬を一筋の涙が伝ったと認識した時には俺はなまえの腕の中に居ってキツく抱き締められていた。
そこでやっと、俺の頬も濡れたのだ。




淋しがりの心臓
-全身に寂寥を運ぶ-



(寂しいのはお互い様)


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