short | ナノ
そして疑問を胸に抱えたまま訪れる8月15日。
午後12時半位のこと。眩しい日射しの中。他愛もない会話をして。


「――……って、言ってさ。もういい加減にしねーかな」
「ったく、あいつもしゃあない奴っちゃなあ」
「、! ……だろ? 白石からも、何か言ってくれよ」


ふといつもと同じ公園で昨日見た夢の残影を思い出した。
微笑む白石に被って。でも、まだ。はっきりしない。

頃合いが良い時間になったから「もう、今日は帰ろか」と切り出す。
少し残念そうに立ち上がった白石の手を引いて、道を抜けた時。
周りの人は皆上を見上げ口を開けていた。

しかして、見ていたのは空なんかではなくもっと硬質の。


「白石、ッ!!」


網膜にべたりと張り付く光景。鮮やか過ぎて逆に色を失った。
落下してきた鉄柱が白石を貫いて突き刺さる。
劈く悲鳴と風鈴の音が木々の隙間でひたすらに空廻り。

それらを混じて奏でられたのは不協和音。痛い。
胸がぎゅっと締め付けられる。痛い。

そしてやはり、朧気に歪んだ視界の先でゆらゆらと地面が揺らいでいた。
夢のようにワザとらしい陽炎が「夢じゃないぞ」って嗤ってる。
眩む視界に溶け込む奴の横顔。笑っているような気がした。

何故、笑っているの。なあ、何故。



***



事の終わりはいつも息が詰まる程の真白に埋め尽くされていた。
何度世界が眩んでも、陽炎が嗤って容易く奴を奪い去る。
繰り返して何十年。


「……っは、はは……は、ッ……ぅ……くっ」


もうとっくに気が付いていた。
現実を受け入れられない、等とこんなよくある話なら結末はきっと1つだけ。
ならば、踏み出してあげよう。繰り返した夏の日の向こうへと。
そうすれば。






8月15日。午後12時半位のこと。
するり、と白石の腕から躍り出る様に抜け出した猫。


「――――……っあ、ちょ、みょうじッ!!?」


それを追いかけようとした白石をバッと押し退け飛び込んだ。
瞬間、本来は奴にぶつかるはずだったトラックにぶち当たる。

血飛沫の色。目に痛い、鮮やかな紅。

記憶の中に鮮明に刻まれたあの惨状が俺の肢体を媒体に繰り広げられているだろう。
だから、呆然と俺を見つめる奴の瞳と軋む身体に乱反射して。
ぐらりぐらりと辺りは不安定に揺らぐ。
奪えなかったと文句あり気な陽炎に「ざまぁみろよ」って笑ったら、これで全てが万事解決。

これは実によく在る夏の日のこと。
白石が嫌うそんな何かがここで終わった。
そして、奴の姿がかげろう。これで良い。これで。
真白に世界は眩み、俺の思考は暗んだ。



***



かっと眼を見開く。
目を覚ましたのは8月14日。ベッドの上。
薄暗い自室。変わらぬ天井の滲み。
少し速くなった呼吸と鼓動。


「また、ダメやった……」


俺はただ一人猫を抱き抱えていた。
ぼそり、呟いた言葉は空に霧散。誰も答えてくれない。
俺が望んだばかりに、彼は俺の在るべき道を辿ってしまった。
繰り返す悪循環。目蓋の奥に広がるイメージが消えない。

8月15日の午後12時半。
何度となく繰り返す俺の夢を見て覚ってしまったみょうじは俺の代わりに道路へ飛び出す。
俺は、受け入れられなかった。諦められなかった。
トラックにぶつかる15日も鉄柱に貫かれる15日も。
でも、彼はそんな俺に気付いてしまった。




「……っも、嫌やぁ……みょうじッ、!」




死にたくなかった。でも、だからといってみょうじに死んで欲しくはなかった。
何度世界が眩もうと何度世界を繰り返そうと。
道筋は歪な方向転換を起こしたまま軌道修正は最早困難。

こんな15日はいらない。受け入れられるはずがない。

だから、俺はまた14日に目を覚ます。




カゲロウデイズ
-陽炎が幻にかげろふ-



(堂々巡りを繰り返して揺らめく世界)
(これは、よくある話の結末だ)


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