short | ナノ
そんなこんなで始まった5限の現国の授業。
木ノ下は入って来た瞬間俺らの方を睨みつけてきた。

早速告げ口かよ。ほんと許容の狭い人間だな。

そして今日の授業内容はプリント演習。
つまらないこととの上ない。


「……みょうじ、仁王、丸井」
「なんすかー」
「貴方達、また池内さんに暴言を吐いたらしいですね」


不意に近付いて来た木ノ下。
聞き捨てならない単語に俺らは一様に眉を潜め、奴もまたそんな俺らの反応に顰めた。


「暴言は吐いとらん」
「貴重な一生徒としての意見を述べただけだろい」
「貴方達がそう思っていたとしても、相手はそう思っていませんよ」


もっと相手のことを考えた言葉を述べたらどうですか。
なんて眼光鋭くさせて、木ノ下は淡々と喋った。
滔々と降ってくる大人が言う正論と給う弁舌の雨。
聞き流すのも飽きてしまって、口を開く。


「先生、質問でーす」
「何ですか、黙りなさい」
「どーしてなんですか」
「うるさい、黙りなさい」


自分の話は聞く事を強要しておいて、俺らの話は聞かないとか。
本当あんたらどんだけね、つまらん人間なんですか。
終わったのは授業が終わる10分ほど前。
真面目ぶるのはいいけど、ね。
たまには息抜きしませんかと本気で思う。

げんなりしたのは矛先を向けられた俺達だけではなく、聞かされていた周りも辟易していた。
そこを考えると少し申し訳なく思う。
クラスの奴らは何も悪いことはしていない。
だから、こんな嫌な空気を味わう道理はない。
敢えて言ってくるこの教師の汚さに反吐が出る。


「うっぜ」
「……また聞こえるっての」
「少しは学習しんしゃい」
「あーはいはい。俺がわるーござんした」


勿論一気にテンションだだ下がりな俺がプリントなんかやるはずもなく。
木ノ下が教卓近くの椅子に座ったのを見計らって携帯を取り出した。
何か面白いものやってないかな、とイヤホンを通してワンセグに繋ぐ。
でも、つまらない。
退屈なテレビの向こうは今日もふぬけた話題ばかり。


コンビニ強盗がたかが5万円ぽっちを奪って逃走しただの。

中学生が親との喧嘩が拗れに拗れて親を刺しただの。

国会議員の裏献金が発覚しただの。
大物俳優に不倫疑惑が浮上しただの。


今日も、ふぬけた話題ばかり。あーあ。
何か面白いことないのかねー…ホント。



***



かったるい5限が終わって、俺ら三人は連れ立ってトイレへ。
所謂連れション。別にいいだろ!
トイレ行く時間も惜しいぐらい話すことはあるんだ。


「ったくよー……あいつらの言うこと聞いてたら、あれもできないし、これもできないし」
「あれとかこれとか指示代名詞ばっかじゃ分からねーだろい」
「はっきり言ったらよか」
「髪染めとかピアスとか指定外ベストとか悪戯とかゲームとか漫画の持込とか」
「っはは、見事に怒られることばっか」
「やけん、どれも俺らがやっとることじゃの」
「だってよ! これらを取ったら、一体何やれって言うんだよ!」


さあ、と語尾を上げた二人は揃って首を傾げた。
だろ?!と興奮気味に唇を尖らしたらまたしても揃って「キモい」と言われる始末。
こいつら揃い過ぎじゃね?仲良きことは美しきかな…ってか?うあー…キモ!


「……あ、ここに落書いとこ」
「は? ……あーあーあー……また、そんなこと書いて」
「懲りん奴ぜよ」
「これを止めなかったお前らも同罪な」
「ちょ、ざけんな」
「横暴ナリ。不条理はんたーい」
「だまらっしゃい!」


軽口を叩きながらトイレを三人して後にする。
その途中に人だかりを見た。

まだ、あいつは学校に居たのか。

自然と眉間に皺が寄る、と丸井に怖いと指摘されて。
謝る心の余裕もなくその人だかりの方向を睨みつける。


「歩き食いは行儀悪いと前々から指導されているだろう」
「……はあ」
「しかも、ぶつかって謝罪の一つもないのか。人様の服を汚しておいて!」


ハンパな大人がクソガキけなすな。
指導という名目で怒鳴りつけておいて、本心はただの腹いせ。
どっちが子供かわかりません。
どうせ後者が本音だろーに。




「くそったれ」




拳を握り締める。
ああいう大人には本当腸が煮え繰り返る。
やれ差別だとかやれ卑猥だとか、自分に都合の良い理由を付けてこちらの楽しみを奪う。

それで何度俺の漫画やゲームが犠牲になったことか。
それで何度俺達の楽しい話の腰が折られたことか。

大人はそれをくだらないと一蹴するけれど、そのくだらないものを生み出してるのは紛れもなく大人で。
矛盾ばっかでホントそれこそくだらない。


「――――ッ誰だ! トイレにこんなことを書いた奴は……!!」


言葉狩りもほどほどにしなってんだ。



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