short | ナノ
全身を叩き付ける風が心地よかった。
煮詰まってどろどろに融解した頭を冷やす雨が心地よかった。

低く近付いた雲が重たく地上を圧迫すべく降下している。
自然的に発生した威圧感に無意識に唇が弧を描く。
いっそこのまま全て地面の奥深くに沈めて土と同化させてくれたら。
なんて、決して伝わることのない愚考。


「――――! ……き……!!!」


声帯が音を発生させようと小刻みに振動して。
しかして、音声は全て暴風と豪雨に呑み込まれた。

気持ち良い。
世界は俺の言葉を必要とはしていないのだ。
否。俺だけではなく動植物全ての言葉を世界は求めていない。


『台風とは違うみたいやけど……暴風雨警報出とるみたいやで』


だけれど、求めていないだけならまだ良かったのかもしれない。
世界は拒絶している。
動植物全ての言葉を聞かされる事を。
それらを知らない俺達は伝わらない言葉を羅列して。
こうやって無視されることに対してさめざめと哀しんでいる。


「……、ぃ……!」
「し……! す……!!!」
「! ……ぉ……!!」


俺は世界に無下にされることは何とも思わないけれど。
やっぱり、吐き出したくはなるものだから。
こうやって伝わらない言葉を全力で気の済むまで遥か遠くに投げつける。



「――……しらいしー! すきだーー!!!」
「ッ、何度も叫ぶなや! こんのドアホ!!」
「ぅおわッ?!」



あるはずのない怒鳴り声が背後から聞こえて、驚きに脚を取られ転んでしまった。
恰好悪くも水分をふんだんに含んだ土に膝から崩れ落ちる。

ああ、全身泥だらけだ。

濡れ鼠になることは覚悟していたが、泥に塗れるのは想定していなかった。
心の中で半泣きになりながら白石を見上げて、耳まで赤に染まった顔とぶつかる。


「し、白石……」
「……っ、自分なんべん告白すれば気が済むねん……!」
「あ……全部、聞いてたんすか」
「丸聞こえやっちゅーねん!!!」


ふるふると両手が脇で握り拳を作っている。
それの意味するところは憤怒か羞恥か。
俺には分からない。分かろうとしていない。
なぜなら。


「大体、今日は出掛けるな言うたやろ……ッ!!」


どっちにしたって怒られることが決まりきっていたから。

ここは中心街からかなり外れた郊外。
濁った底の見えない海が一望できる小高い丘。
30cmも無いような距離で大きな声を上げて。
中学生二人が濡れ鼠になっている光景。

想像するだけで面白おかしくて仕方がない。


「な、に……笑っとんのや!」
「……白石もそんなに大声で怒鳴るんだなって、思ってさあ!」
「意味分からん!! ったく……はああ」


水を吸って顔に張り付く髪を鬱陶しそうに横に払って、白石は俺に抱き付いてくる。
濡れ身のままの抱擁は冷たくありながら、熱かった。




世界の一点で彼らは叫喚する
-世界の面にはとても及ばない-



(ところで! 何でここが分かったの!?)
(自分の行き先なんかお見通しや!!)


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