涼やかな風も吹いている。
今日も良い日和だ。
「何してんですか」
閉じた視界にすっと影が落ちた。
高くもなく低くもなく。中性的なそれ。
耳に心地良くするりと入ってきた。
目蓋を開けてみる。
「……っ……」
余りに整った見目に思わず息を忘れて。
逆光だったけれど、目を奪われた。
絹糸のような細く繊細な髪。
なんとも形容し難いその色は柔らかい。
そして、直毛であるその髪は風に靡き陽光に煌く。
「……ジロジロ見過ぎ」
「――――ッあ、……すまんばい!」
にこり。
実に愉快そうにその彼は口端を吊り上げて、踵を返した。
それじゃ、去り際の一言は至極簡素。
引き止める間もなく。彼はこの場を立ち去った。
そして、またその彼は現れた。
飽きもせずほぼ毎日。裏山の大樹の下。
会話はそこそこ。無言の方が多いかもしれない。
しかして、それでも構わなかったのだ。互いに。
流れる空気が和やかで。落ち着き安らぐ。
「……?」
示しを合わせたように会っていたから。
その日もいつものように会えると思っていた。
でも。彼はやってこなかった。
それは、夏休みの最後の日。
日が暮れても彼は姿を見せなかった。
夏休みが明けて。学校が始まって。
蒸し暑い晩夏が過ぎて涼しい初秋も過ぎて。
だけれど、彼は現れなかった。ただの一度も。
「……寂しかね」
ぼそり。
何となしに呟いた言葉は冷たい空気に攫われた。
もうじき中学最後の冬休みがやってくる。
冬休みが過ぎれば、後は受験と卒業のみ。
早くて色濃い1年に幕を下ろす瞬間は刻一刻と迫っていて。
やはり浮かぶのは、寂しさ。
そして。
「……はあ、会いたか」
「誰にですか」
「!」
彼はまたもや突然やって来た。
(不思議少年αと同じく不思議少年千歳の奇妙なほのぼのストーリー)
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