青年は外界と遮断されたそこに飽いていた。
何もせずに。
何も出来ずに。
ただ漫然と時間だけが流れていく無意味な日々。
――――…たすけて
そう、形作った唇。
音を為さない呟きは誰にも届かない。
力なく空に向かって伸びる両手。
短過ぎる人の腕はどこにも届かない。
「どうして」
その男は花壇が好きだ。
無条件でヒトの言の葉を受け入れてくれる。
その男は屋上が好きだ。
少しでもそこの蒼に届くような気がする。
青年は白い世界に感覚が麻痺しているのだ。
風が吹いた。音が劈いた。
「幸村ッ……、!」
世界が180°引っくり返って、90°傾いた。
無色の世界に彩色が現れた。
「こんにちは」
彼は少年であった。
まるで鏡であった。
「貴方に何が分かるというんだ……!」
けれど実は鏡ではなかった。
近付けば遠退き、遠退けば近付く。
初めは興味。次は憐恕。
「待つものは……変わらないよ」
後の羨望。
「ありがとう」
そして、最期は感謝にその目蓋を閉じる。
「そんなの……許さない……ッ!」
粉々に叩き崩された目前の鏡。
砕いたのは少年であった。
望んだのは青年であった。
隔たりを失った溝を互いに跨いで、その手が掴んだのは。
(事を達観視しきれない青年と憎き病と闘う幸村少年のシリアスストーリー)
→第二弾・仁王
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