short | ナノ
俺の恋人は美人だ。

どんな姿も綺麗の一言に尽きる。
眉目秀麗の頭脳明晰。
おまけに普段の性格も良好ときている。
本当、完璧とはなまえのためにある言葉だと思う。


「ああ、雅治。もう部活終わったのか」
「後は引き継ぎだけじゃからのう」
「そうか。……まだ、俺はかかるから帰っても良いぞ」
「んー……見とったら邪魔ナリか」


俺の台詞に考える素振りをしたなまえ。
その首筋を伝う汗。妖美にして優美。
ごくりと唾を飲み込んで。
けれど、なまえはあっさりとその伝っていた汗を拭ってしまった。
ちょっと勿体無くて小さく溜め息を洩らす。

奴は汗をも似合う男。全く恐ろしい限りじゃ。

まだ夏の暑さは続いていた。
俺の全国は終わったけれど、なまえの全国はこれからやって来る。


「見るのは構わない。面白くないとは思うが」
「そんなことないぜよ」
「……そうか。じゃあ、上がると良い」


招き入れられた空間は和一色であった。
当然だ。なまえは弓道部所属なのだから。そして部長という。
ああ、どこまで揃っているのだろう。


「こっちの壁際ならどこに居ても大丈夫だろう」
「なまえの邪魔はせんよ」
「知っている」


くしゃり、なまえの大きな手が髪を撫ぜて思わず綻ぶ頬。
それを見留めたなまえは元の立ち位置に戻り、数m先の的を見据えて仁王立つ。
弓と矢を構えて一極集中。
張りつめた弦がぎりぎりまで引き延ばされて。



――――タァン!



真っ直ぐ放たれたそれは寸分の狂いもなく的の中心を射貫いた。
その横顔のなんと凛々しい事か。
なまえが浮かべるものなら何でも好むが、特にこの真剣な表情が好きだ。



***



あれから数時間が経って、漸く部活は終了の時間になったらしい。
なまえの集合を呼び掛ける声に現実世界に引き戻された感覚だ。
それ程までになまえを凝視していた。
見飽きることなど当然あるはずもなく。
知らぬ間に時間は過ぎていたようだ。


「雅治」
「っ! ……な、何じゃ」
「本当に最後まで見てたな」
「……なまえ、カッコええんじゃもん」
「はは、ありがとう。……おいで」
「ん」


まだ弓道衣だったけれど立ったままのなまえが腕を広げたから、躊躇うことなくそこに擦り寄る。
抱擁されたことによって曝け出された首筋。
そこがやっぱり魅惑的だと思う。だから。


「っん、……雅治?」
「あ、ッすまん……」
「……謝らなくて良い、驚いただけだ」


半ば無意識にその白い肌に噛り付いていた。
歯を立てた訳ではない。所謂甘噛みというやつだ。
勿論痕など残ってはいない。

いつもこの首筋に印を刻みたいと思うのだけれど。
このすべらかな肌を傷付けるなんて、いくら俺だとしても許せない。


「のう、なまえ……キスしたい」
「っふ……そのようだな」
「……っぁ、……!」


くいっと持ち上げられる顎。そこに添えられた硬い指。
なまえに触れられる箇所は全て熱を持って、塞がれた唇なんて溶けてしまいそうだ。
ぬるりとした舌は的確に口腔内を歯列を舐るから、腰は震えるばかり。


「ぁッ……なまえ……っ、もっと、んん……ッ!」
「、ん……」
「……っふ、ぁ……ッ……っはあ、……」


なまえの顔が離れたのを契機に混ざりあった涎を呑み込む。
そんな俺を眺めていたなまえの目が細められて、また抱き締められた。


「ん……なまえ……ッぁ?!」


普段より高い体温をぼんやり感じていると不意に耳裏に走る刺激。
吸われたらしい。
珍しい行動に目を丸くさせながらなまえを見やって、悪戯な笑みとぶつかる。
なまえにしては子供らしい表情。

あ、今きゅんとした。


「雅治が付けたそうだったから、代わりに」
「意味分からん、んっ……ぁ、なまえ、耳……や、じゃ」
「そうか? その割にこっちは、嬉しいそうだが」
「っぁ! 、んんッ……っは、なまえ、ぁ……ン……」


ぬちゃりと舌が耳の中に入ってきたから抗議を口にした。
されども含み笑いで返され息使いも熱も舌越しに全部伝わる。
そして、少し強引に壁に押さえ付けられた。
でも、荒くはない。



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