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保健室特有の消毒系の臭いがする。
今俺はベッドの上に横たわっているわけなのだが、ベッドが硬くて正直痛い。
でもここの臭いがあの人みたいで好きだから、こんな痛み位朝飯前やっちゅーねん。


「白石ぃー、調子はどや?」


ジャ、無骨に開けた区切り用カーテン。
顔を覗かせたのは保健医のみょうじ先生。


「んー……頭痛い、ダルい」
「……熱は無いみたいやな」


ひやりとした低体温の掌は存外気持ち良かった。
でも、熱は無い。
当たり前や、だって仮病やし。
俺は優等生で通用してるから仮病がバレることもない、はず。
ぼーっとしてるといつの間にか先生は自分の机に戻っていて、その片手には受話器。


「……あ、渡邊先生ですか。保健医のみょうじです」
「!」


相手はどうやらオサムちゃんのようだ。
やばい、焦って反射的に起こした身体。
あ、少しクラッときたかも。
身体はすぐにベッドへ逆戻り。
それでも、今度はゆっくり身体を持ち上げ声を張り上げた。


「先生っ、俺部活に「白石」


そして当然といえば当然に、カーテンを開けて先生は再び入ってきた。
怒っている風ではない、むしろ。


「渡邊先生には言うといたから、今日は部活休み」
「へ、あ……え?」
「最近保健室によぉ来よるし」
「っ、それは……」


先生の表情に浮かぶ色は心配一色。
ほんまは仮病なのに、やっぱ優しい。
口籠るのも後ろめたさが原因だけれど、きっとこの人は勘違いをしている。


「疲れてんのやろ」
「……え、」
「今からここ閉めるから、ゆっくり眠れるで」


ほら、彼も俺を優等生扱いすんのや。
心配されることに嬉しさ半分、悲しさ半分。


「白石は気張り過ぎや」


ぐしゃりと頭を撫ぜなれて、目を伏せていたために一瞬反応が遅れた。
そろりと上目遣いを狙って見上げればいつもの仏頂面。


「……先生」
「ん?」
「名前、呼んだって? ……したら寝る」


熱く火照った頬を隠そうとベッドに横になった。
そして、薄手の布を顔まで引き寄せてそっぽを向く。
子供っぽかっただろうか。
キモい思われただろうか。
でも、そんな不安は杞憂に終わった。



「……お休み、蔵ノ介」


布からはみ出して跳ねた髪を撫で付けるように触れて。
何度も撫でる規則的動作に誘われるまま、俺は意識を手放した。



沈黙のオフィーリア
-この想いを胸にしまって-




(今はこのままで)


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