今日もいつも通り。
ややフライング気味にざわめいていた教室は先生退出後あっという間に喧騒に包まれた。
入れ替わり立ち替わり通行は激しく、甘い香りが動く空気に乗って教室内を漂う。
「し・ら・い・しーッ!」
「っ、! ……みょうじ」
「これ白石にやるわ!」
「……な、なん」
「何なん? それ」
ずいっと目の前に突き出された両手にはがさつなコイツの割りには丁寧に包装された無地の白い包み。
包装の隙間からは仄かに甘い香りがした。
上手く言葉が出ないうちに謙也とみょうじはどんどん話を進めていく。
どうやらこれは今日の調理実習の産物らしい。
「今日のクッキーな絶ッ対白石にあげよ思ててん!」
「い、いいらんわっ」
「えーッ何でや?」
「(ち、近ッ近い!!)何でっ、俺がお前のか、菓子を食べなあかんっのや」
「(噛みッ噛みやな……)」
顔を上げてみょうじの顔を直視することが出来なくて、目線が游ぐ。
コンマ数秒交わった謙也との視線が呆れを含んでいた。
それは俺の気持ちを知っているゆえの反応なのだが。
にこやかに受け取ればそれで済むはずなのに、にこやかな顔さえ上手く行かない。
再度謙也と目線が合うと「受け取れ」なんて口パクで俺に向かって言う。
それが出来たら苦労せぇへんわ!
「はあー、諦めやなまえ」
「嫌や!! それじゃ意味ないやんか! な、白石受け取ってやあ」
「(俺かて欲しいっちゅーねん!) あ、あかん!」
「……どしても?」
「……俺っ、……あ、甘いもん、苦手なんや」
あんまりみょうじが引き下がらんからつい口から出任せが飛び出た。
あからさま過ぎたやろか。
みょうじはぽかんとしとるし、謙也に至っては口を押さえて必死に笑いを堪えとる。
「せやったら、俺にくれや」
「「は?」」
「白石は食わんのやからええやん」
「……しゃーないわ、今回だけやで。これは白石のためなんやから」
「分かっとるわ」
みょうじが教室から立ち去っても、その背中を見届けることは出来ず。
俺は謙也の手に収められた包みを睨み付ける。
「……そないに睨まんでもちゃんとお前にやるて」
「……睨んどらん」
「はあぁー……ほんまなんやねん」
「俺かて、好きであないな態度……取っとるわけちゃうもん」
「へいへい、ほれ大事に食いや」
みょうじが俺のために作ったクッキー。
腐らせず食べきれるか甚だ疑問や。
ギュッと白い包みを潰さない程度に握りしめた
「ありがと……謙也」
「ええって。気にすんな」
三歩進んで二歩下がる
-進展はまだ見えぬ-
(美味……いぃ、……)
(っわ、泣くなや!)
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