short | ナノ
部活が終わって宍戸との自主練も終わった薄暗い帰り道。
最早日課となりつつある寄り道をするべく細い裏道に入った。

途端に鋭い目付きで鳳を睨み付ける柄の悪い少年達。
それに臆することなくずんずんと脚を進めて、少し広い道に出る。
汚い地面に無造作に置かれた大型家電等の不法廃棄物の上に複数人がたむろっていた。


「みょうじさん」
「……鳳」


うんざりしているというよりかは呆れているといった声でみょうじは口から紫煙を吐き出す。
話しかけた時は嬉しそうだったのに目の前にいる彼の右手に持たれたそれに鳳が眉を潜めた。
再度「みょうじさん」と呼んだ鳳の口調には非難が混じっていて、小さく溜め息を溢したみょうじは煙草を地面へと投棄。


「ここには来んなって言っただろ? 何回言えば分かんだよ」
「煙草は止めて下さいって言いましたよね? みょうじさんこそ何回言えば分かるんですか」
「俺はお前の為を思って言ってんの」
「俺だってみょうじさんの身体を気遣って言ってるんです」


両者一歩も引かない口問答に先に根を上げたのはみょうじの方。
降参とでも言うかの如く両手を上げ肩を竦めた。


「口の減らない坊っちゃんだこと……」
「その呼び方止めて下さい」
「ああ、悪かったな。お坊っちゃん」
「……意地悪」


ニヤリと笑ったみょうじとは対照的にいじけた風に口を尖らせた鳳は年相応の顔付き。
和やかな二人とは裏腹にみょうじの背後に居る少年達の表情は険しい。


「みょうじ」
「あ? 何」
「氷帝の金持ちといつまで話してんだよ」
「ここは東京の掃き溜めだぜ? こいつには似ても似つかないだろ」


みょうじを除くこの場に居る者が敵意を丸出しに鳳を囲む。
馬鹿が、忌々し気に吐き出した台詞の発言者はみょうじ。
思わぬ発言だったのか既に臨戦態勢だった者達は一様に驚いた表情を浮かべた。


「少しは考えろ。相手は金持ち、手を出して分が悪いのはこっちだ」
「……でもッ、」
「二度は言わない。こいつは手出しせずにおけ」


また追い出されたいのか。

決して大きくはない声だけれどいきり立った者達を諌めるには十分の効果があった。
渋々とはいえ握った拳を収めたのを確認したみょうじは気怠気に立ち上がり鳳の背を叩く。
それは帰宅を促す合図。
鳳もまたその合図に逆らわず大人しく背を押されていた。








「ここからなら絡まれないだろ。今日のとこは帰りな」
「嫌だ、と言ったら?」
「……」
「……すいません、我儘言いました」


ぐっと息を詰めたみょうじを見やって後悔に小さく頭を下げて謝罪を口にする。
だけれどその顔にはありありとこの場への未練が見て取れて、やはりみょうじは押し黙った。
肌寒い風が吹き抜けて、「また、来ますね」「……来んじゃねーよ」と言い合えば鳳はみょうじに背を向ける。


「鳳」


数歩進んだところで呼び止められ、疑問に振り返れば微かな笑みとぶつかった。




暗暗裏にそれは育つ
-お互いの預かり知らない処で-



(金持ちは嫌いだけど、お前みたいな正直者は好きだぜ)


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