short | ナノ
俺がペンを走らせる音しか鼓膜を震わすものが無い部屋の中、不意に戸を叩く音が混ざった。


「……入れ」


狭いこの空間の中では控えめなノックさえ大きく反響する。
まあ狭いという形容も自室との比較によるもの故に、ここもそこそこの面積はあるだろう。
部活が休みの今日。
俺は生徒会室に籠り数多の雑務を片付けていた。


「景吾」
「なまえ、何の用だ」
「相変わらず冷たいねェ」


目下に作成中の書類から目線を上げることなくここへ訪れた用件を問う。
散々聞いたことのある声だ、この俺が聞き間違える訳がない。
「ま、そこが可愛いんだけどサ」と本人もさして気にした素振りはなかった。
ムカつく台詞も聞き飽きたが慣れはせず、思わずがばっと顔を上げてしまう。


「……チッ」
「怒んなって。綺麗な顔が台無しだヨ?」
「うるせぇ」


意地の悪い笑顔と声音。
奴の思い通りに反応を示してしまった自分が憎たらしい。
鋭く睨み付けるもこいつには威嚇にすら取ってもらえずただただ面白そうに喉を鳴らす。


「用が無いなら帰れ」
「またまた。何で来たか分かってるくせに」
「……」


後ろ手で鍵を閉めたなまえはゆったりとした足取りで迫ってくる。
白々しいねぇ、首を僅かに傾けてケラケラと奴の笑いは続行。
白々しいのはお前の方だろうという思いは言葉にならない。


「久し振りにヤらせて?」
「……明日部活だ」
「いっつもソレ。いい加減俺も限界だって」
「、ッぁ……テメ!」


いつの間にか背後に回っていたなまえのざらりとした舌が耳の後ろを舐める。
ぞわりと背筋に粟立ちを感じればペンを机に叩き付けて振り返った。
しかしそれが不味かった。


「はい確保ー」
「ッ! は、なせ……ッ!」
「んー……却下☆」
「却下じゃな、ッぁ!」


なまえの左手が俺の両手をまとめ上げてぴくとも動かせない。
しかも自由な右手が脇腹を撫でた所為で奴を煽るような声が漏れた。

マズい、そう思った時には既に遅く見返したなまえの眼は欲に塗れている。
こういう眼をした時のこいつは歯止めが利かないことが多い。
明日の部活は丸潰れか、なんて諦めて大人しく身を委ねることにした。

「ん、良い子」
「……っは、代償は……ンっ……高いッぜ、ぁ」
「ここまで我慢させた景吾が悪いんだヨ」


釦を外す手は止めないで「いつも大人しく引き下がると思わないで?」なまえがにこりと笑いかけた。
言っている言葉とは真逆な爽やかな笑みに心臓がきゅっと締めつけられる。
所詮は惚れた弱みなのだろう。
こちらの都合を押し付け続け、結果として禁欲生活を強いたのは事実。


「ふ、はぁっ……んん、」
「いっぱい愛してあげるから」

なまえの些細な言葉が一々下半身にくる辺りどうやら俺も溜まっていたようだ。
っは、俺も人の事言えねぇな。




ある日の忠犬の反逆
-主導権は忠犬に在り-



(……これらの書類はどうしてくれるんだ。あーん?)
(…………俺、知らないモン)


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