short | ナノ
部活終了間際の鐘が辺りに響き渡った。
ここ四天宝寺中はもとよりここら一帯の住人はこの鐘の音を一つの目安にしている。
俺もその一人だしあの人もそうだ。
そろそろ走ってこっちに来る頃合いだろう。


「なまえーっ!」


遥か遠くから名前を叫ばれる。
半分反射的に振り向いて、駆け寄ってくるミルクティー色。


「蔵先輩」
「会いたかったでーっ!」
「先輩、足元をちゃんと見「、ぶべっ」
「遅かった……」


毎回毎回注意してるのに何でこの先輩は同じことを繰り返すのだろうか。
情けない声をあげて転倒した蔵先輩に歩み寄って抱き起こす。
転けた拍子に満面の笑みは消え、代わりに半泣きの顔が現れた。


「大丈夫ですか? ……あーあ、膝擦りむいとるやん」
「……うぅー……、痛いぃ……」
「そそっかしいクセに走るからっすわ」


別に非難しているわけではないが、俺の言葉にしゅんと眉尻を下げた。
半泣きだったのが泣き出す一歩手前まで表情を崩す。


「やって……、早よなまえに会いたかってん」
「……言うてくれれば俺が迎えに行きますのに」
「なまえいつも忙しそうやないか」


迷惑かけたない、消え入りそうな声音で呟いて俺のジャージの胸辺りを掴む。
蔵先輩はいつも他人のことばっか考えとって、自分は二の次。

ほんまにこの人は。



「先輩のことで迷惑やて、思たことなんかありません」
「っ、なまえ……」
「もっと我が儘言うてええですよ」



勢いよく俺を仰ぎ見る。
その顔付きは驚喜と不安が入り交じったもの。
更にきつく服を握り締めて、おずおずと先輩は口を開いた。


「じ、じゃあ今日から毎日一緒に帰ってもええ?」
「おん」
「昼も?」
「先輩が望むんなら」
「〜〜〜〜ッ、なまえー!」


胸辺りを離したと思ったら次の瞬間には首に抱き付かれた。
嬉々として顔を首元にぐりぐりと押し付ける。
どうやら転けた痛みは取り敢えずどこかへ吹っ飛んだらしい。

また一つ、鐘の音が鳴り終えた。




A SCATTERBRAIN
-でも愛らしい人!-



(……すまん、鼻水付いてしもた)
(…………ええですよ)

※scatterbrain→おっちょこちょいの人※


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