職員室には居なかったから絶対ここに居るはずや。
「オサムちゃん、今ええ?」
「おお、入りや」
「失礼し、あ……」
俺の予想は大当たり。
無遠慮に準備室のドアノブを回して、オサムちゃん以外の人と目があった。
「こんにちは」
「こ、んにちは……」
「アイツがさっき言うた部長の白石や」
「ああ、彼が……雰囲気出とるわ」
オサムちゃんをちらりと見て再び俺に視線を戻す。
すっと目を細めて頭から足先まで眺められて、まるで品定めされてるようやった。
でも、嫌な気はしない。
「(……にしても端正な人やな)」
「ほな、俺はもう行きますんで」
「おお」
数秒間見つめ合っていると、おもむろに振り返った彼は喋りだす。
イスに座っとったオサムちゃんも微かに目を細めて応じて。
目と目だけで会話してるようにも見える動作。
「なまえ、……ちゃんと気張りや」
「俺は先輩とはちゃいます」
「ほおー言うやんけ」
小さく含み笑いをして俺の横をすり抜けた彼はドアノブに手をかけた。
そしてその状態のまま顔だけ俺に向けた。
「白石くんは何年?」
「え、あ、3年です」
突然の振りにどもって、少し恥ずかしい。
けれどもこの人はさして気にした素振りを見せなかった。
しかも「そか」の一言を返して、それ以上会話を続けるわけでもなく部屋を出ていく始末。
一体何やったんやろ。
「オサムちゃん、あの人誰なん?」
「俺の後輩や」
「ふーん……カッコええ人やな」
ちゅーことは20代か。
てか、何でオサムちゃんはそんなににこにこ笑っとんねん。
「やろ! アイツは昔から人気あんねん」
「オサムちゃんとはちゃうねんな」
「やかましいわ!」
言葉と表情が面白いほどに一致していない。
なまえはええ奴やでぇー、なんてほんまに嬉しそうに笑って。
思わずその髭面に部誌を叩き付けてしもた。
なまえさん(名前しか知らんねん)がここに居ったわけは翌日判明する事となった。
薄暮のオレンジピューレ
-甘酸っぱい橙-
(今日から赴任して来たみょうじなまえです)
(皆さん宜しゅう)
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