ガタガタと窓枠が寒風によって音をたてる。
雪は降らないにしても体感温度は低いわけで、なまえは厚着に厚着を重ね謙也に引っ付いていた。
「なー謙也ー」
「んー」
「構ったってやー」
「後でな」
黙々と机に向かい、広げているのは問題集と参考書。
紙に羅列されているのはアルファベット、俗に言う英語だ。
「……それさっきも聞いた」
「やったら我慢しぃや」
謙也にシャーペンを止めることなく一蹴され、不貞腐れた風に呟いたなまえ。
しかし、彼は現在受験生。
今の時期が大切なのは去年身を持って体験しているため重々承知している。
だからこそ数時間は我慢したのだが、流石に手持ち無沙汰で。
「暇」
「さよか」
辛うじて返事は貰えた、がそれはにべもないもので。
作業は中断されなかった。
「……謙也ぁ」
「……」
「なー」
くっ付けていた身体を更に押し付けて謙也の気を引こうとする。
重く息を吐き出すと少しだけ顔をなまえの方に動かした。
「……なまえ」
「! 何!?」
「五月蝿い」
「痛ぃッ!!」
ぶす、シャーペンの先端を手の甲に然程力を込めずに刺した。
呆れ顔の謙也と涙目のなまえ。
これではどちらが歳上か分かったもんじゃない。
仕返しと言わんばかりに腕を絡め抱き付き返すなまえの行動は子供そのもの。
「書きづらい」
「知らん」
「お前マジ邪魔すんなや」
「……冷たい」
しくしく、なんて嘘泣きを口で言う辺りが果てしなく鬱陶しい。
反応をするのさえも時間の無駄だとでも言うかの様に勉強を再開する。
一心不乱に取り組む姿を後ろからというか斜めから眺めて、ふとなまえが首を傾げた。
「……お前そんなに勉強熱心やったか?」
「頭ええなまえには分からん悩みやっちゅーねん」
忙しなく動かしていた手をぎゅっと握り締め、目線は英語を睨み付けたまま。
小さく発した声とボキっと芯が折れるのは同時だった。
「自分の医大レベル高過ぎや……」
本当に驚いたようで密着していた身体を思わず離した。
「え?謙也、俺んとこ受けるん?」
「あかんの?」
「まさか、大歓迎や!」
口を尖らした謙也を強く抱き締め直したなまえは嬉しそうに笑った。
受験戦争
-今やらずにいつやるというのだ-
(なら、邪魔せんといて)
(……頑張リマス)
←
×