short | ナノ


「嫌や」
「いや、踏ん反り返られても」
「嫌なもんは嫌や」
「……お前いくつやねん」


大袈裟に大きく溜め息をついた謙也。
と同時に脱色した髪を乱雑に掻きむしってばさばさ音をたてる。
なんや子供扱いされた気分で良い気持ちはしない。
ギィ、俺らの前にあったドアが内側から開けられた。


「あれ、くーちゃん。まだここにおったん?早よ入りや!」
「ゆ、友香里……」
「友香里ちゃんはもう終わったんか?」


そう言えば友香里も今日来る的な話しとったな。
早く早くと急かすコイツは俺の腕を引いて中に連れ込もうとする。
てかどさくさ紛れに謙也は何背中押しとんねん!


「おん! あんなめっちゃカッコええ先生がな、やってくれてん! 全然痛なかったわ」
「やろ!」
「……顔と技術は関係ないやろ」
「せやからなまえさんは凄い言うてんやん!」


15にもなる男子らが押し問答してる様ってほんま変やと思う。
ガラス越しの中に気を取られた一瞬、謙也と友香里によって押し込まれた。


「ぅわ、っぶ!?」
「! っと、大丈夫?」
「っぇあ、は、はい!」
「君も予防接種しに来たん?」
「なまえさん!」


謙也が背後から声を上げて、視界にネームプレートが入る。
『おしたり』、小児科故の平仮名表記。
謙也の親戚なんて嘘やん、カッコ良過ぎるわ。


「コイツが前に言っとった白石や」
「おお、注射苦手なんやて?」
「……やって、痛い」
「おま「謙也くん」


なまえさんが手と目で文句を言いかけた謙也を制す。


「俺も白石くん位ん時注射苦手やったで」
「ほんまですか!?」
「おん。あんな細い針が刺さるなんて有り得へん思ててんよ」
「笑わへんのですね」
「苦手なもんは苦手やろ。他人が笑うとこちゃうやん?」


半身を返して俺と向き合った彼は優しそうな笑みだった。


「……」
「どっち選ぶも君の自由やで。まあ、医者としては受けてもらいとこやけどな」
「……受けます」
「ん、おおきに」






受付を済ませればなまえさんに直接案内され、予防接種開始。
会話をしながらの作業で、意外と我慢出来ないような痛みではなくなんだか拍子抜け。


「よぉ我慢したな。もぅええで」
「っ、……おん!」


刺した部分を脱脂綿で軽く拭った後、なまえさんは頭を撫でてくれた。
恥ずかしい、でも嬉しい気もする。
片付けを看護師さんにまかせて、なまえさんは「今度も宜しゅう」言うて診察に戻ってった。




白衣と平仮名と注射
-示すは彼の先生-



(どないしよ、注射好きになりそうや!)
(そうすればここで、)


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