放課後の人も疎らな教室。
窓側の最後尾の机に彼は俯せて居た。
ふと人の気配と影を感じ、おもむろにみょうじは顔を上げる。
「みょうじ」
「……何だよ、忍足」
不機嫌そうな声音。
気怠気に仰ぎ見た視界には伊達眼鏡をかけた関西人が居た。
「まだ機嫌悪いんか」
「……関係ねぇだろ」
「岳人が泣き付いてきてん」
赤髪の少年が目前の彼に泣き付く様が脳裏にありありと浮かぶ。
別れ際に見た怒気を孕んだ涙顔。
見たのは昨日のはずなのに、ついさっきのように思える。
「チッ……、何でお前が来んの」
苛々を表面上に浮き彫りに、椅子に横座りにし直し頬杖を付く。
蛍光灯と夕陽がレンズに反射して更にみょうじの顔を歪めさせた。
「そないな態度やったら、絶対岳人何も言えんようなんで」
「へぇ……で、忍足直々に俺の機嫌取りってわけかよ」
マジねぇわ、溜め息混じりに吐き捨てる。
ぷいとそっぽ向く横顔が示すのはやはり苛立ち。
「ほんま機嫌悪いなぁ……そんなに岳人んこと怒ってるん?」
「あ? あー……今は別に」
頬から顎に添える手の位置を変えて。
顔の半面は橙に染まっていた。
「別にっちゅー面やないで」
「……苛ついてんのは自分にだし」
呆れを含んだ半笑いを視界に捉えて意味なく忍足の足元を見やって目を細める。
既に残っていた人達も帰り、居るのはみょうじ達だけ。
「はあ? 八つ当たりかいな」
「だから、今アイツから距離を取ってんだろ」
素っ頓狂な声を上げた忍足を鬱陶し気に睨み付け、そしてガタリと椅子を引いて立ち上がった。
薄い鞄を乱雑に肩にかけ「ったく、距離取った意味ねぇじゃねぇか」と未だ苛高は健在。
立った事で変わった視点から、忍足の背後に見慣れた背格好を見付ける。
見付けたけども、目線は合わせない。
「頭冷えるまで……もう少し待て、岳人」
ぽん、頭何個分か下にある岳人の頭を軽く叩いた。
叩いた直後ビクッと僅かに震えるも「っ、ぉ……う!」なんて健気に返答して。
必死に泣くことを堪えているようだ。
両者不器用
-不器用故の衝突は日常-
(怒っているはずのみょうじが笑った気がした)
(これは錯覚か否か)
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