short | ナノ
駅前の遠くからでも良く見えるでかい時計。
短針が頂点を通り過ぎて、待ち合わせから丁度一時間が経った。
彼には遅刻癖があるため多少の遅れは覚悟していたが、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。


「(……おっそ。何しとんねん、あん人は)」
「君一人?」
「は?」


いっそ電話したろかとポケットの携帯に手を伸ばした時、唐突に話しかけられた。
何かと思って不機嫌に顔を上げればニヤニヤとした笑いをした男二人組。


「うわマジで声かけてんか」
「ええやん。こいつ可愛ええし」


頭の天辺から足先まで舐めるように見てきて、不快さが増す。
正直自分も男と付き合っているから大きなことは言えないし、差別するつもりもない。
ただ彼以外の男に可愛いと言われても気持ち悪いだけだった。



「俺らと遊びに行かへん?」



言うよりも早く右手首を掴まれ無理矢理ポケットから引き摺り出された。
あまりにも掴む手の力が強いために手首から先の感覚が鈍くなる。
言葉通り血の気が引きそうだ。


「ちょ離せやっ、触んな……っ!」


ぞわっと鳥肌が一瞬のうちに全身を駆け巡って。
柄にもなく焦燥を含んだ声に一番驚いたのはきっと自分。
(下心丸出しの)他の男に触られるのがこんなにも怖いとは思わなかった。


「ざーい前、何しとんの。早よ行くでー」
「! 先ぱッ」


緩い感じの話し方にそれ通りの柔和な面持ち。
卑下た笑みを浮かべる二人は手首を未だ拘束中。
随分な温度差だ。


「ほれ、ヘルメット」
「……っす」
「っつーわけで、……あんたら邪魔やわ」


彼の登場は思っていたより遥かに安心材料だったようで。
すっと肩から力が抜けていく。
安堵する俺とは対照的に僅かに怒気を込めた強い口調。
言葉と同時に掴む男の手を叩き落として、ぐいっと肩を引き寄せられた。




「人の勝手に手ぇ出すん止めてもらえますか」




呆然とする二人を無視してバイクの後部座席に腰を据えた。
何個目かの赤信号でずっと言わないでおいた文句を口にする。


「……遅いわ、このアホ」
「堪忍、道が混んでてん」
「しかも変な男に絡まれるし、ほんま最悪や」
「助けたやないか」


バイクの上での支えは彼のみ。
腰に回した腕に力を込めて背中に顔を埋めてみる。
そう言う問題やない、呟いた言葉が聞こえたか否かは分からない。


「……ほんま堪忍な。怖かったやろ」


気遣う様な口振りは彼にしては珍しかった。




役立たずのトロイカ
-低速では意味を為さない-



(初めて自身の遅刻癖を呪った)


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