「お邪魔しまーす」
鍵を開けて室内へ入ると同時に謙也は顔を引き攣らせる。
「……やっぱこうなっとったか」
玄関から真っ直ぐ進めば居間に出る訳なのだが、そこへ至る道にはゴミの山。
食べ終わった弁当に飲みかけのペットボトル、スーパーやコンビニのレジ袋が床一面に散乱していた。
「なまえさーん、居るんー?」
居間まで歩いて辺りを見渡す。
ここで声を上げれば全部の部屋に聞こえる算段だ。
案の定「おー、謙也くんこっちやー」と一番奥の仕事部屋からなまえの声が聞こえた。
少し小走りに部屋のドアを開けて。
「っうわ、汚ッ!」
一歩身を引いた。
居間と同等かそれ以上の散らかり様。
それでも、この家の持ち主は平然と机上のパソコンと向き合っている。
「なまえさん……」
「いやあ、すまんなぁ。ちょお仕事が忙しゅうて」
非難の意を込めて呼び掛けるも何のその。
この有り様や、なんて手をひらひらさせるなまえに反省の色は微塵ほども感じられない。
最早何も言うまいと諦観を決め、謙也は続けて話しかける。
「で、その仕事は済んだん?」
「……それが、煮詰まっててん」
「じゃあ、シャワー行ってきぃ。その間に掃除しとくわ」
なまえの腕を取って、半ば無理矢理立ち上がらせる。
何か言いたげな彼を「食べ物関係だけ片付けんで?」と笑顔を向け押し黙らせた。
無事仕事部屋の掃除を済ませた謙也は台所で料理仕度をしていた。
居間も廊下もゴミは綺麗なまでに一掃され、代わりに大きなゴミ袋が部屋の片隅に放置。
「お、ええ匂い」
料理の匂いに釣られて半濡れの頭をしたなまえが台所を覗く。
お玉を片手に謙也は入口の方を向いた。
「さっぱりしたやろ? 部屋行く前にご飯食べてってや」
「……ほんま、謙也くんは出来た子やー」
一瞬目をぱちくりさせて、感激のあまり後ろから抱き付く。
次いでに首元で頬擦りをすると、擽ったそうに謙也は身を捩った。
can do and can’t do
-どうやら仕事と家事は別らしい-
(そういうなまえさんは俺が居らんと駄目な人やんな)
(触れてる首元は熱を持っていた)
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