short | ナノ
わいわいがやがや、実習中の調理室は賑々しい。
その中でもとある一角の台が異彩を放っていた。


「白石ー」
「ほい。あ、みょうじあれ取ってや」
「ほれ」
「ん」


只今の会話で目線は交わっていない。
ついでに言うと身振り手振りもない。
なんでそんなんで伝わんねん。

とんとんとんと五月蝿くない程度の小気味良い音を立てて野菜を刻むみょうじ。
中火にかかってる鍋から手早くあくとりをする白石。
唖然としてそれをガン見する女子。


「……普通逆やろ」
「何言うとんねん」
「せや。料理屋の息子が料理下手とか有り得へんわ」
「俺は四天宝寺のバイブルやで? 出来て当然や」
「「なぁ?」」
「このガチ夫婦が……っ」


カタン、あくとりを終えた白石が調理台の上に器具を置き依然として呆然と立ち尽くす女子に声をかける。
その隙に難なく材料の切砕を済ませたみょうじが邪魔な器具類を流しに落とした。


「怪我されても困るし、あっちで待っててくれへん?」
「後は簡単な作業だけやし。あ、白石あれは頼んだで」


コイツら遠回しに邪魔て言うとるやろ。
あんな至近距離で笑ろうて、顔を真っ赤にさせた女子は離れた座席にそそくさと座った。


「で、忍足はそこで何しとるん?」
「俺も邪魔やて言いたいんか」
「誰もそんなこと言うてへんわ」
「謙也のことやから、スピードスターや! 言うて野菜やのぅて指切ったんやろ」
「……見とったんかい」
「簡単に想像出来んで。なぁみょうじ」


せやな忍足やし、二人してなんや引っ掛かる物言いだけれど図星なだけに下手に言い返せない。
白石は左手でスポンジを泡立てて、流しにあるものの洗浄に取り掛かる。
勿論手の平にかかる部分の包帯は取り去ってあった。

みょうじがコンロでさっきの材料をてきぱきと加えて手際よく炒め始める。
そうすれば、いつの間にか白石が皿を準備していて。
そこに他人が付け入る隙は完全に見当たらず。
家庭科の先生も先程から乾いた笑いしかしていない。
めっちゃ引き攣ってんやん。


「出来たで」
「完成や」
「「流石俺」」
「……ここまでくると何も言う気せぇへんわ」


自画自賛した二人を放置して俺は自分の班のところに着席する。
並べられた料理を眺めて、やっぱ白石らんとこの方が美味そうや。




卓上に輝くディッシュ
-素晴らしきその腕前-



(中3男子がなにやっとんねん)
((それは偏見やで))


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