「ねぇ、なまえ」
「学校ではなまえ先輩、だろ。何だ越前」
只今朝練の真っ只中。
頭上に広がる空は正に青天。
雲一つなく午後から降雨の予報だったけども疑わしく思えてならない。
どのみち天候なんて気紛れだから予報も直感も当てには出来ないのだが。
「何でオレと試合してくんないの」
「一応オレ年上、敬語。オレなんか弱すぎてつまんないだろーよ」
「……嘘つき。親父とやってるくせに」
あはは、ばれてらー。
洗濯物のタオルを干す手を止めずに呟いた。
拗ねた視線がグサグサと背中を刺し続ける。
雨が降り始める前に洗濯を終わらせなければ。
降ろうが降らまいが結局放課後練習で使うのだから。
早急に。
「ねぇ、何で」
「さてね、何ででしょう」
「……ムカつく」
はてムカつくのは行動か言葉か。それとも両方か。
おそらくは後者。
奴は子供扱いされるのをひどく嫌う。
「おチビー!」
「おーい、越ぜーん!」
「ほら先輩達がお呼びだぜ」
「……コンニャロ」
「ま、試合の件はまた後日」
後日なんて用意しないけど。
口先ではなんとでも言うことは可能。
きっと今の顔は満面の笑み。
そっと背を押せばかなり後ろ髪を引かれながらグラウンドへ。
こりゃあ放課後は校庭50周から始まるな。
それよりも他の奴らのタイミングの良さに吃驚。
「良い感じで洗濯も干し終わったし」
「おーい、なまえー! 教室戻るぞー」
「おー今行くわー」
親父さんの薦め通りにマネジャー始めて良かったかも。
毎日が楽しくて楽しくてたまらない。
再度呼び掛ける桃城に返して干場を後にした。
緩く弧を描く軌跡
-やがて大きな円になる-
(なまえっ、試合やろ!)
(その話は後日つったろ! 今日はもうなし!)
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