short | ナノ
どうせ貴方は次の相手が見付かるまでの繋ぎなのよ。

そう冷ややかに笑った彼女の言葉が頭を離れない。
心のどこかでは気付いていたのだろう。
だからこそ、こんなにも引っ掛かっているのだ。恐れていると言っても良い。
大概執着しているな、と浮かぶ自嘲。漏れた笑みは渇いていた。


「みょうじ」
「! おお……終わったのか」
「おん、待たせてもうて堪忍な」
「別に構わないって」


俺が好きで待ってるんだから。
そう咄嗟に繕った笑みが剥がれそうで冷や冷やしている。
人一倍目敏い忍足は僅かな綻びさえも拾い上げて、見抜く。
勿論、それを当人に突き付けるかは全くの別問題で。
忍足においては自身の胸の内に留めておくような奴であった。


「……ほなら、行こか」
「ん、」


促された帰宅に従い踏み出した脚は今日も重たい。
一歩前を歩む背を眺め、ふと抱き締めたい衝動に駆られる。
それを口にすれば、曲がりなりにも"恋人"である忍足は少々戸惑いを表しながらも拒みはしないだろう。
しゃあないなあ…――と甘く笑いながら突然の抱擁も受け入れるのだ。

気を許した人へはとことん甘い。それが忍足の長所であり短所であった。


「……みょうじ」
「んー……? なに、! ……っ……」
「……っん、……は……ちょお、口寂しなってな」
『――どうせ貴方は次の相手が見付かるまでの繋ぎなのよ』
「なあ、みょうじ……もっかい」


熱く熟れた忍足の声と瞳が悪戯に理性の糸を弄んで、ねとりとしたあの声が纏わり付いている。
それを振り払おうと些か乱暴に唇を掠め取るのだけれど。
唾液の絡む音があの声と不快に混ざり合うだけだった。

上顎や下顎の歯列を舌でなぞるだけで漏れる声も。
舌を吸い上げられて切なげに眉を顰めた表情も。
全部好きに違いないのに。

けれど、これがいずれ訪れる誰かとの"繋ぎ"であると思うだけで――不安定で脆い心は暗く濁る。
例え今は一番だと囁いてくれたところでそれは気休めでしかなく。
結局のところ忍足を信じ切れていない自身に、俺は失望と嫌悪を覚えるのだ。


「……っは――……なあ、」
「んっ……は、……なん?」
「……いや……やっぱ、何でもない」
「そか? ……何や、今日のみょうじ元気あらへんな」


何でも言うてや、話ぐらいは聞いたるさかい。

そう言いきった忍足は胸が締め付けられて苦しい程に満面の笑みだった。
表面だけの薄っぺらいものでないそれが"特別"だと以前言っていたから余計に。
肯定されることが乗り換えられることが、怖くて堪らなかった。

それ故に、俺は彼女の言葉を振り払えないし忍足の言葉も本当の意味で信じていなかった。
その姿のなんと醜きことか。




呑酸に爛れた
-痛いと咽び泣く遺体-



(離れたくないなあ……)


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