short | ナノ
高級そうなソファーの座り心地は申し分なく、けれど居心地が大層悪かった。
毎日座っている彼には解らない感覚だろう。
感触が悪くなってきたから、と廃棄されてきたものは数知れず。

彼は物に頓着しない性分で。俺とは真逆だ。


「光くんは何飲む?」
「あ、何でも大丈夫です」
「じゃあココアで良いかな。丁度あと1杯で無くなるんだ」


オープンダイニングでココアとコーヒーを作る姿は、流石この部屋の住人だけあって様になっている。
未だ慣れぬ空間の中で、どきどきと早鐘を打つ心音が五月蝿かった。

近付かれれば聞こえて覚られてしまいそうで。
それ以前に表情に出てしまっていそうで。

じっと見つめていた目線を伏せる。
自分はここに居て良いのだろうか、彼の色んな面を知る度に思って仕方ない。
一度それを口にすれば彼は瞬く間に表情を曇らせ否定してくれるから、俺はいつも呑み込むのに必死だ。
彼の言葉が嘘だとは言わないし思わない。

しかし、それとこれとでは話が違う。彼がどう思っているかはこの際関係なかった。


「はい、どうぞ」
「ども」
「今日の夕飯はパスタにしようと思うんだけど、バジルとかアボカドとか大丈夫?」
「……はあ、多分いけると思います」


食べたことないんで、零れ落ちた自身の台詞が存外冷たくてはっとする。
どうして俺はこんな物言いしか出来ないんだ、湧いた自責の念はココアを啜ることで誤魔化した。
誤魔化せたかは定かではないけれど。

彼は彼自身にまつわることで俺が気落ちすることを酷く嫌う。

以前そう言われてから言葉の端々に気を配る様になった。
気落ちされることを厭う気持ちは同じだ。
けれども、俺の発言は鬱々めいたものが多く、八つ当たりも多い。
そう考えると相性的には不釣り合いだろうに。それでも彼は一緒に居たいと言う。

どうして。ふっと湧いた疑問はいつだって片隅に居た。


「あんた、変わってるっすね」
「そうかな? 光くんも結構変わってると思うけど、」
「俺は普通、……ただの凡人や」
「あの個性的テニス部についていける段階で相当変人じゃない?」


勿論良い意味で、だけど――と続けざまに笑う。幸せそうに笑う。




「まあ、変人同士お似合いってことで」
「……そーゆーことにしといたりますわ」




なあ、表面通り受け取ってええんかな。いつも不安で怖くて押し潰されそうになる。
近くまで受け入れてしまった存在だからこそ、失うことがとても恐ろしい。
多分彼には俺なんかよりもっと相応しい人が居ると思うけど。
まだ傍に居てええんかな。




枯渇確乎
-注いでも注いでも足りない-



(満たされない)


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