short | ナノ
暗がりの中で手を伸ばした。
つい先程まで互いをきつく抱き締めあっていたのだから、直ぐ傍に居るのは解っているけれど。
無性に心配になったのだ。
居なくなっていたら、きっと耐えられはしないから。
それが有り得ないと笑い飛ばされることだとしても、不安に思うのは否めない。


「(……、居った……)」


規則正しく上下する肩にそっと手を添えてみる。
温かい。確かな形がある。彼は変わらず傍に居た。
はあ、と重く震えた息を聞こえないように起こさないように吐き出す。
目を閉じれば先と同じ、だけれど先より少し暗い世界。
どくどくと急いて喚く心音が生じた安堵を奪って駆り立てる。

この人が常に傍に在る保障はどこにもない。




「……っ……」




そんなのは嫌だった。
離れないで、そう縋るのは至極簡単なこと。
そうすれば、優しい彼のことだ。満足のいく答えと対応してくれるに違いない。
けれどもそれも嫌なのだ。
我儘だと独り善がりだという自覚はある。
それでもただ望むままに与えられるだけなのは苦しくて堪らなかった。

そんな関係など代わりがいくらでも存在し得るから。
いつ飽いて鞍替えされるかも判らないから。
深く依存してしまえば、この手から存在し得なくなったときが悲惨なのである。


「……」
「!」
「……ひかる、」


掌に確かに温もりは在るのに、まだ信じられなくて薄く目蓋を開けて息を詰めた。
彼が真っ直ぐとこちらを見ていたのである。
またねむれないの、口調はどこか舌足らずな眠たげなものなのに眼差しは凛と強い。
この視線にいつも気圧される。


「ひかるは、そのままでいいんだよ……?」
「、っ……」
「おれははなれないから」
「……ごめんなさ、っン……」
「……ん……何で謝るの、光は悪くないでしょ」


唇を攫われて有無を言わせない物言い。
この口調にどれだけ救われてきたかなんて、きっとこの人は一生解らないだろう。
俺が悪くない、など天地がひっくり返ったって有り得ないのだ。
ぎゅ。心地好い体温に全身が包まれて「さ、もう寝よう」そう言われてしまえば寝るしか選択肢はない。
心の卑しくも疚しいそれが1mmも解決していなくたって、この人の提案は絶対で。


「……おん、お休みなさい」
「うん……お休み」


柔らかな微睡みに身を委ねれば、また不安に怯え過ごす明日を迎えるのだ。
――――…あんたは知らんやろ、こんな俺なんて。
自嘲気味に吐いた溜め息。
それは彼の健やかな寝息と不調和に雑ざり合って、霧散した。




リバーサルード
-地に落ちた望-



(そして、握ったこの人の手が擦り抜ける夢をみた)


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