short | ナノ
割れ物を扱う様な手付きが好きだ。
行為の間にだけ見せる掠れた声が好きだ。
雄の欲に飲まれかけている瞳が好きだ。

だってどれも、恋人という立ち位置故の特権だから。


「……ぁッ、んん! ……みょうじ、っ……ひッあ、……ぁ、はあ……ッ、」


太股に添えられた手の平から汗ばんだ熱を感じる。
骨と骨がぶつかる鈍い痛みでさえ今の俺には快感へと成り果てて。
近付いてくる高み。慣れた感覚。
これから来るであろう波に身を委ねて、俺は対して抗うこともなく熱を吐き出した。


「っんぁ、ぁ、ああッ……!」


けれど吐精を果たしたのは俺だけで。
中に収まっているみょうじの昂りは未だ硬度と蕩ける様な熱を保っている。
ああ、熱い。
射精の余韻にうち震える下肢を抱え直したみょうじは腹にかかった生暖かい白濁が飛び散るのも気にせず律動を再開した。

ビリビリとした刺激が腰を穿つ度に繕った表面が剥がれる。
ぐちゃぐちゃとした粘着質な音が鳴る度に隠した中身が漏れ出す。


「ッちょ、待……っん、ぅ!」
「……っ、……」


男らしく骨ばった指が俺の顎を捕らえて嬌声や吐息全て唇ごと貪られた。
ずるい。
こんな時ばっか甘ったるくしてくるなんて。
普段は甘さの欠片もないくせに。

口付けの間にみょうじは達していて、中がひどく熱い。



***





「……なぁ、みょうじ」
「ああ? 何だよ……」


情事後の雰囲気なんて皆無で、辛うじて同じ布団に入ってはいるが冷たい。
先までの熱さが嘘のよう。
身体は密着しているのに俺とみょうじの間には絶対的な隔たりがある。


「別れたい」


情事中に声を上げすぎたために掠れた自身の声。
それが余計に情けなさに拍車をかけた。
本当は別れたくなんかない。
だって俺はみょうじが好き。

でも、もう虚しさの方が大きくて。
恐らくみょうじは引き留めはしてくれない。


「ふーん……好きにしたら」
「……おん」


ほら。
いつだってみょうじは冷めてて。
いつだって俺を見てくれはしない。
必死に視界に入ろうとしても、意識に入ろうとしても。
真っ直ぐとした不動の眼差しは俺を通過してしまう。

「……ああでも」


何か閃いた様な口振りで話を続けるみょうじの瞳はもう熱は籠っていなかった。
俺の身体はまだ熱いのに。なんて対照的。


「俺、来るも去るも拒まねぇけど二度目はないから」
「…………え?」
「よりを戻してやる程お優しくはないってこと」


ま、好きにしな。
絶句している俺などお構い無しに睡眠に入る体勢を取るみょうじ。
いつだってこの想いは一方通行で虚無感が愛情を越えたりする。

それでも、例え情事中しかまともにみょうじん中に入れてくれないとしても。


「……冗談に決まってるやん」
「へえ……あっそ」
「みょうじ、」


彼の世界に一生立ち入ることが出来なくなるぐらいなら、今の方がよっぽどましだ。
薄っぺらい虚勢もみょうじにはどうでも良いこと。
俺に背を向ける奴の背に抱き付いて耳元に口を寄せた。
出来るだけ艶かしくみょうじの欲情を再び引き摺り出す様に、囁く。


「もっかい、抱いてや……? 次は、もっと激しく……な、あかん?」
「……はいはい」


振り返った瞳にまた雄がちらついたのを確認して密かにほくそ笑んだ。
みょうじは上手いから声を抑える事は困難だけれど、意識がしっかりしてるあたり手加減してくれている。
けど、今はそんなものいらない。
思考する暇がないくらい滅茶苦茶に、出来ることなら意識が飛ぶ程に。




「……っ、ぅあ……、ッ」




気休めは所詮気休めでしかない。知ってる。
終われば、また逆戻り。解ってる。
でも、今だけは気休めに縋らせて。




頭から真っ逆さま
-打ちて粉砕骨折-



(弾けて思考は真っ白)


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