それから蛍光灯とテレビも付ける。
そうすれば、静まり返っていた部屋の中が音で埋め尽くされる。
「あー……もう、9時やないか……」
人が居ない室内は冷えていた。
でも、外よりは暖かいからと暖房に伸ばした手を引っ込めた。
四角い画面から発する光と音。別に特別見たいわけではない。
俺が欲しいのはきっと雑音。気を紛らわすための何か。
パソコンで音楽を流し動画も流す。
種々多様なざわめきに身を置いて、今日も一人呟く。
或るときはテレビに向かって。或るときは漫画に向かって。
また、或るときはパソコンに向かって。
そうして漫然と時間を過ごして、俺は今何をしているのだろう。
「……さむ、」
溜まった洗濯物や洗い物。冷蔵庫に放置される萎びた食物。
目に付く埃や髪の毛のゴミ類。目障りで仕方が無い。
でも、動くのはめんどくさいから。今日も後回し。
別に他にやることなんてないくせに。今日も自分自身に言い訳。
テレビの中の人間が喧しく騒ぎ立てる。
何が面白いのか全く分からなくて、眉間に皺が寄った。
チャンネルを回して回して回して、ああつまらない。くだらない。
吐いた溜め息が何故か色濃く存在感を現す。
有色の溜め息に無色透明の自分。ぼっちの感覚は錯覚であり紛れも無い実感だ。
携帯が光る。メールを開く。そこでやっと自分自身が現実味を帯びる。
俺は今この相手と繋がってる。でも、やっぱり虚しい。変わらない。
だって、ここには居ないじゃないか。
『明日のテスト範囲分からへん!!』
「アホやろ……前日に聞くやつがあるか」
口から出たのは文句で、なのに表情はきっと嬉しそうなものだろう。
ちゃんとプリントで範囲を確認してから、携帯片手にテレビを消した。
静けさが増す。緩んだ頬の筋肉が元に戻る。
「 」
ふと漏らした自身の言葉を理解したくなくて、頭を振った。
本当は解っているくせに。無駄に足掻くのだ。この頭は。
吐き出したそれは、ひどく甘ったれた言葉で。
周りに、それこそ家族や友人に迷惑以外の何物でもない。
また、携帯が光る。そうだ、明日は俺もテストだった。やらないと。
『サンキューな!』
「……それは、こっちの台詞だっつーの」
伝わらない言葉。伝わらない意思。
何も知らないそれがどれだけ心に染みたか。
でも、それはあいつの与り知らぬこと。
「ありがと……謙也」
だから、この情けない顔も知られない。
それだけは良かったと思う、独り善がりな我侭。
Solitary boy
-明暗が分かつ瞬間-
(大丈夫、まだ、だいじょうぶ)
(言い聞かせるように、呪いのように)
(俺は今日も喉を震わす)
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