short | ナノ
二度と夜が明けなければ良い、と。
二度と明日が来なければ良い、と。
突き抜ける程に澄んだ紺碧の空を眺めて、もう何度思っただろうか。
きらり、星が輝った。

明日であの人達とは会えなくなる。
見掛けることすらも叶わなくなる。
部活を引退した時からずっと明日という日に怯えていた。

部活は好きだ。先輩達も好きだ。そんなこと絶対に口になんかしてやらないけれど。
この部活に誘われた当初から可愛がられ目を掛けられ、叱咤激励をもらった。
勿論テニスの腕も自分なんか遠く及ばない程で。
そんなあの人達に憧憬と尊敬を持つのは当然ともいえるだろう。


「――――…、……っ!」


迎える先を拒むのは今日で最後にしようと決意して、暗む世界に何度となく言い聞かせるのに。
一向に覚悟は決まらなかった。
こちらの覚悟などお構いなしに刻々と時間は刻まれ、日常が過去の一部となっていく。

居なくなる。見れなくなる。俺が、その瞳に映らなくなる。
俺はあの人の過去のほんの一部にしか過ぎなくて、それが堪らなく苦しくて。だから今日も。




「ほんま、来んなや……」




暗い部屋で一人膝を抱えて蹲った。
夜が明けなければ明日は来ない。
明日が来なければ先輩はずっと。
只でさえ遠い存在であるあの人が益々手の届かないところにいってしまうなんて。
嫌で嫌で仕方がなかった。



***



心で抗いながらも迎えてしまった翌日は、俗にいう卒業式。
肌寒い早朝に家を出てこの澱んだ頭の中をどうにかしたかった。
せめて今日だけ。今日の追い出し会が終わるまで。
あの人達が想像する後輩であろうと決めたのだ。
そうあることが邪な感情を抱いた俺が出来るあの人へのお返しだ、と。
呪い言のように繰り返して、しかし知らぬ間に足が向いていたのはあの人の教室だった。

真っ直ぐ迷うことなく向かったのは一つの机で、その表面を撫でる。
ここで先輩は一日の大半を過ごして触れて。
それだけでただの机がとても愛おしいものになるから不思議だ。
盲目的な一方通行。


「……財前?」
「! ……ぁ、……」
「どないしたん?こんなとこで」
「、っ……!」
「え……ざ、ざいぜ……」


首に巻いたマフラーを外す先輩の手が中途半端に止まって居心地悪そうにする。
ああ、やってしまった。
熱く火照る目頭にもう後戻りは出来ない。
卒業式当日の早朝に先輩の教室に来る後輩がいるだろうか。
先輩の机を壊れ物を扱うかの如く触れる後輩がいるだろうか。

ましてや、一人の先輩に対して。




「ご、めんッなさい……!」




駆け出した背中に戸惑った声音を受けて、その声にすら嬉しいと思ってしまう俺は救いようもなく。
浅ましかった。




DisintegrationUrge
-こんな結末を望んでなんか-



(追い出し会も)
(引け目のあまり泣き崩れた)


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