short | ナノ
貴方は知らないだろう。この胸の内を。
焦がれに焦がれて焦げ付き出したこの胸の内を。


「おはようさん、みょうじ」
「おお、はよ! 白石」
「みょうじみょうじ! ちょ、これ教えてやー!」
「おま、挨拶もなしかよ!」


俺に向けてくれていた視線が一クラスメイトの声によって反らされる。
愛想笑いが本物の笑みに変わる。
毎日見ていた俺だから判るほんの些細な変化。
きっとみょうじ自身も気付いていない。所謂、無意識。
判るのは、俺だけ。


「、白石……っ!!」
「……何や謙也。また、宿題でも忘れたんか」
「…………申し訳ございません」
「ったく……昨日あれほど言うたったんに」
「おっしゃる通りで……」


拝み倒してくる親友の頼みを邪険に出来るはずもなく。
本人のためにならないと知りつつ問題のノートを取り出して渡してやる。
何度もお礼を口にして、お礼よりも宿題をやってきて欲しい。
しかも余計なことに「…流ッ石、白石!全部やってあんねやな!」なんて大声で言うから、そのヒヨコの様な鳥頭を叩いといた。

必死に俺の答えを書き写している謙也を横目に視線はみょうじへ。
俺が顔をそっちへ向ける瞬間に彼は顔を背ける。

ああ、やっぱりこっちを見とったんやな。

誰にも覚られない程度に小さく息を吐き出して、憂鬱。
こちらはこんなにも好意を持っているというのに彼には全く以って伝わっていないのだ。
だって、彼は俺のことが苦手なのだから。




その事実に気付いたのは約1ヶ月前。
教室に忘れた携帯を取りに戻るというなんともベタな展開である。
教室にはみょうじのグループがまだ残っていて、ドアを開けようとした時に話が聞こえた。


「最近よお白石と話してんけど、いつの間に仲良おなったん?」


この頃俺は彼への好意に自覚を持ち始めていて、少しでも話がしたく頻繁に会いに行っていた。
そして、俺は選択を間違ったんや。
この時いつもみたいに何食わぬ顔で教室に入っていれば知らずに済んだ。


「んー……白石から話し掛けてくるんだって」
「あれ、みょうじって白石んこと嫌いやったっけ」
「……嫌いってか苦手? 俺、ああいう何でもそつなくこなす奴駄目なんだよ」
「ええ? 羨ましいとかやなくて?」
「だって、何でも出来るってなんか怖いじゃん」


完璧過ぎるから俺白石みたいなの無理。
そうきっぱり言い放ったみょうじの言葉が鼓膜を突き刺し、頭に重たく圧し掛かる。
彼の言ってることが偏見だとか勝手な決め付けだとか、そういう反論が出て来ないくらいショックで。
その場に脱力してへたり込んでしまった。

苦手意識なんて、よっぽどのことが無い限りなくならない。
つまり、俺の行為は彼にとって迷惑以外の何物でもないということ。

それから俺はみょうじに話し掛けに行くのを極力避けた。






「はああ、今回の宿題めっちゃ難しいわー……」
「この最後の問題なんて高校レベル言うてたからな。明宮は出来たん?」
「まさか。最後の方なんてどれも分かんないから白紙だし」
「うあー……俺も白紙で出したろかな…」


それでも、この想いに諦めは付かなかった。
寧ろ膨れ上がる一方で。このままだといつ爆発してしまうか、気が気ではない。
どうしたら。どうしたら、真っ黒い消炭になって捨てられるのだろうか。




湿気った導火線は着火するか否か
-どうか、早く点いて燃え尽きて-



(自身の異名がこんなにも憎たらしい)}


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